2018年2月17日土曜日

あきない世傳 金と銀(五)


 髙田郁 『あきない世傳 金と銀(五) 転流篇』 
ハルキ文庫 580円+税

 江戸時代中期大坂天満の呉服商を舞台に、主人公・幸(さち)が苦難を乗り越え、商いに精進する物語、第5巻。
 商いは幸が繰り出す企画で順調。しかしながら、幸の身辺にまたもや災厄が起こる。あんまり書くと未読の方に怒られるので、このくらいに。

 悲しい出来事や悪口に負けず働く幸に対して、妹・結(ゆい)は「心がない証」と女衆(おなごし)に不平を言う。女衆は、幸が人前で気丈に振る舞っているが、人知れず悲しみに耐えている、とかばう。

〈「古手を解いたら、縫い手の心が見えますのや。心ない者は心ない仕立てをするもんだす。たとえ見えるとこ、目立つとこは綺麗に繕うてあっても、解いてみたら一遍にわかります」
(中略)
「ひとも同じだすやろ。目ぇに見えるとこだけで、心のあるなしを判断できるもんやおまへん」〉

 それにしても、髙田郁という著者はどこまで幸と読者をいたぶるのか。このサディストめ! 
 
 

卯月みゆき描く表紙の絵が美しい。帯は著者の漫画チックイラスト。

(平野)『みをつくし料理帖』特別巻の予告がある。
《ほんまにWEB 奥のおじさん》更新。

2018年2月15日木曜日

こんにちは


 谷川俊太郎 『こんにちは』 ナナロク社 1800円+税

 東京オペラシティで開催中の《谷川俊太郎展》関連書籍。詩22篇(新作含む)、俳句、写真(谷川撮影もあり)、対談(会場の音楽・映像担当者)、「3.3の質問」(著名な回答者)に、特典冊子とポストカード付き。

「自己紹介」
私は背の低い禿頭の老人です
もう半世紀以上のあいだ
名詞や動詞や助詞や形容詞や疑問符など
言葉どもに揉まれながら暮らしてきましたから
どちらかと言うと無言を好みます
(後略)

会場売店で購入。レシートに詩人のメッセージが印字されている。

《詩・ポエムには稿料などの値段がつくことがありますが、元になる詩・ポエジーはお金に換算できません。いまあなたが手に入れた詩的なsomethingの価値を決めるのは、お金ではなくてあなたの感性。俊》

 豆本ガチャガチャもあり、ピンクの詩集が出た。
 
 
(平野)本の表紙、赤と黄もあった。表紙の絵は詩人の古い落書き。

2018年2月14日水曜日

玄鳥さりて


 葉室麟 『玄鳥さりて』 新潮社 1500円+税

連休、孫の食べ初めで上京。

新幹線内の友は、年末に亡くなった葉室麟の遺作『玄鳥さりて』。
師弟愛を超えた男と男の愛。陰陽、日陰でしか生きられない剣の達人・六郎兵衛と陽の当たる立場の圭吾。
圭吾にとって六郎兵衛は、《どれほど悲運に落ちようとも、ひとを恨まず、自らの生き方を棄てるようなこともなかった》人で、《闇の奥底でも輝きを失わない》人。しかし、圭吾は権力中枢に近づくにつれ六郎兵衛の腕を利用しようとする。さらなる権力が襲いかかり、二人は対決しなければならない。全てを見通した六郎兵衛は大きな愛で圭吾を守る。自らを犠牲にしても。
慈愛と献身。衆道までには行かないが、六郎兵衛はまさに漢(おとこ)。

玄鳥とは燕のこと。軒先に巣を作る燕はいつか旅立つ。死を覚悟した六郎兵衛は姿を消し、圭吾のために闘う。
本書は時代小説の先達・藤沢周平への思いが込められている。



(平野)葉室の本は『銀漢の賦』(2007年、文藝春秋)を読んで以来。

2018年2月3日土曜日

近代日本一五〇年


 山本義隆『近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻』岩波新書 940円+税
 
 

 日本近現代史を科学技術史から考え直す。19世紀中頃に西洋は蒸気と電気でエネルギー革命を達成。日本の近代化はそのエネルギー革命と共に始まった。国家挙げて西洋の科学技術を吸収して、富国強兵・殖産興業を目指した。戦争に突き進み、原子爆弾を落とされ、ボロボロの敗戦。経済大国として復興したが、高度成長の影で公害が発生した。平和利用の原子力開発は福島原発事故を起こす。これは近代科学技術の破綻。一貫して「総力戦体制」。そして、人口減少。

《大国主義ナショナリズムに突き動かされて進められてきた日本の近代化をあらためて見直す決定的なときがきていると考えられる。》

 科学技術の進歩は無条件に良いものだろうか? 日本の原子力開発の歩みを読むと、恐ろしい事柄ばかり。戦犯総理大臣がかつて「潜在的核武装論」を唱え、現首相はその考えを踏襲しているようだ。現在日本には6000発のプルトニウム爆弾を作れる材料がある。原発事業はまさに国家総力戦体制で、関連産業は「国策会社」として保護され、政・官の利権構造が維持される。ほとんど語られることのない原発事故後の「決死隊」。あらためて指摘される原子力発電の商品としての完成度の低さ。

「アンダーコントロール」なんて嘘。

(平野)

2018年1月26日金曜日

京都、SUREの本


今週は毎日寒冷日。先週末は過ごしやすく、家人と京都。主目的は孫の雛人形探し。かつて亡母が孫(わが長女)のために買ってくれた人形師のものを贈ろうと思った。あれこれ見れば見るだけ迷う。家人がケイタイで長女と連絡しながら決める。

私たちの京都定番コースは、大谷さん、市場、パン屋さん、漬物屋さん、喫茶店など。私は寺町の本屋さんに行ければ満足。何せ去年の3月以来。去年から今年にかけて買った本・読んだ本が棚に並んでいて、読みたい本もたくさんある。せめて23ヵ月に1度は来なければと思う。《編集グループSURE》の本4冊購入。

 

『鶴見俊輔さんの仕事2 兵士の人権を守る活動』

『同3 編集とはどういう行為か?』

『同4 雜誌「朝鮮人」と、その周辺」

『同5 なぜ非暴力直接行動に踏みだしたか』

1500円+税

 ちなみに(1)は『ハンセン病に向きあって』。鶴見俊輔生前、共に仕事をした人たちの鼎談(20162017年)を書籍化したシリーズ。鶴見の多領域にわたる活動――学者、思想家、市民運動家、編集者――を記録し、これからを考える。

(平野)私は2回だけ聴講した。神戸で《SURE》の本を扱う本屋さんは今のところない。直接注文すればいいのだが、本屋さんで買える本は本屋さんで買いたい。

2018年1月25日木曜日

落としもの


 横田創 『落としもの』 書肆汽水域 1800円+税

 1970年埼玉県生まれ、演劇脚本家、作家。単行本未収録短篇6篇収録。若い女性の独り語り、演劇人ということは一人芝居?


 表題作は、落ちている物、踏切内のバッグでも電車内のティッシュでも、気になって拾いたくてしようがない女性。道に迷っているらしい外国人に声をかけたいと悩み、女の子を怪しい商法に勧誘している男に抗議して二人に気味悪がられ、職務質問のおまわりさんに逆に説教してしまい、コンビニで迷子だと思って子どもに話しかけその親とひと騒動起こし……、空気読めないというかコミュニケーションできないお騒がせ女。妹の飼い猫とは通じ合うらしい。早朝、猫が家を出て行くので後をついて行く。裏道や狭い通路を通り、塀を乗り越え、たどり着いた場所は廃止された神社の森、不法投棄、粗大ゴミの捨て場所。猫が何かを食べている。肉らしい、何の、誰の肉?

一人出版社、第2冊目。主宰者は書店員でもある。
〈本屋として、書店員として、「自分が売りたい本を自らの手でつくる」取り組みの記念すべき1回目の本〉


(平野)
出版社から献本をいただきました。冊子付き。ありがとうございます。神戸ではまだ1軒しか扱っていないようです(1.24現在)。読者の皆さん、本屋の皆さん、どうぞよろしくお願いします。
《ほんまにWEB》「海文堂のお道具箱」「奥のおじさん」更新しています。

2018年1月7日日曜日

何が私をこうさせたか


 金子文子 『何が私をこうさせたか 獄中手記』 岩波文庫 1200円+税
 女性社会活動家の獄中手記。1931年春秋社刊(金子ふみ子)、98年新版同社刊。本書のカバーは春秋社初版本の扉カット。
 
 

 関東大震災直後、多くの社会主義者が拘束された。大杉栄一家が憲兵隊に虐殺されたのはよく知られる。
 金子文子と朴烈は皇太子暗殺計画容疑で逮捕された。爆弾入手計画は立てたが、入手できていない。転向を拒否。19263月、裁判で死刑確定。文子は天皇の名による恩赦・減刑を拒絶し、同年7月獄中で首をくくった。23歳だった。
 文子は判事に勧められ、生い立ちを書いた。事件に関わる行動や思想には触れていない。無戸籍、貧困、虐待、さまざまな差別、不実な男たち、無力な女たち……、文子は苦難の中で勉学を志し、自らの思想をつむいだ。9歳のとき父方の祖母に朝鮮に連れて行かれ、7年暮らした。女中代わりに使われ虐げられた。この一家は朝鮮人民衆から収奪し、彼らを差別する典型的植民地人だった。13歳で鉄道自殺を試みるが、寸前で思いとどまった。

〈私は何だか気味がわるかった。足がわなわな(、、、、)と、微かに慄えた。突然、頭の上でじいじいと油蝉が鳴き出した。/私は今一度あたりを見まわした。なんとうつくしい自然であろう。私は今一度耳をすました。何という平和な静かさだろう。(中略)/祖母や叔母の無情や冷酷から(のが)れられる。けれど、けれど、世にはまだ愛すべきものが無数にある。うつくしいものが無数にある。(後略)

17歳で東京に出て、働きながら学校に通い、キリスト教、社会主義思想に触れた。朝鮮人活動家・朴烈に出会い、共に行動する決意を述べる。手記はここで終わる。

……これだけ書けば私の目的は足りる。/何が私をこうさせたか。私自身何もこれについては語らないであろう。私はただ、私の半生の歴史をここにひろげればよかったのだ。心ある読者は、この記録によって充分これを知ってくれるであろう。私はそれを信じる。/まもなく私は、この世から私の存在をかき消されるであろう。しかし一切の現象は現象としては滅しても永遠の実在の中に存続するものと私は思っている。/私は今平静な冷やかな心でこの粗雑な記録の筆を擱く。私の愛するすべてのものの上に祝福あれ!〉

(平野)