2013年12月23日月曜日

書斎の宇宙


 高橋輝次編 『書斎の宇宙 文学者の愛した机と文具たち』
 
ちくま文庫 880円+税
 カバーの紹介文 ――机、原稿用紙、万年筆、鉛筆。身近な文具にまつわるエッセイを通じて、家族や友人、師との関わり、若かりし日々の思い出、執筆に当たっての葛藤など、創作活動の秘密を浮かび上がらせるアンソロジー。全59篇収録。――
 高橋は元・創元社編集者。古本、編集に関する著書多数。創元社HP「高橋輝次の古書往来」連載(終了しましたが今も読めます)。
 
 わたしたちの机たち
室生犀星 里見弴 川端康成 内田百閒 團伊玖磨 他
 机上風景
島村抱月 日夏耿之介 井伏鱒二 長田弘 他
 原稿用紙と筆記具
安岡章太郎 福永武彦 山口瞳 久世光彦 津村節子 他
 机の周辺
澁澤龍彦 大岡信 小川洋子 山本文緒 他
 わたしの書斎
野村胡堂 伊藤整 宮尾登美子 高橋義孝 他
 
室生犀星「机」 より
場末の骨董屋で小机を見かけた。その家の女の子が勉強をしている。

――古く使い慣らした手ずれのた年輪の美しさは悸とするくらい、鮮明な居丈高な、又よく見詰めるとよき女のように優しくつやつやしたものだった。――

文士の遺愛品展覧会で、一葉の机に素朴で落ち着いた感じに彼女の人品を思い、漱石が書斎で使った炭入れに心惹かれる。
――僕らのように坐業執筆でその日を暮らすものに取って、机は一番に親しく毎日身をもたせるものである。大抵の時間は机に向っているからだ。読書や考え事や悲しみ喜び又怒りの様々の人情事態も机のほとりで経験されるのである。その他、客と話をする時、お茶の時間なども机のそばで送るのが常である。狭いけれど天地の間に手頼るものは机より外にはなく、また悠乎と心と身とを構えるのも皆この机のほとりである。(略)――

 骨董屋に無理を言って机を譲ってもらった。もちろん家には机がある。それぞれの机で作品を書いた思い出・苦心がこもっている。


―― 机はなるべく小さい姿のものがよい、書きものをする時に大きな机はきっちりと心が締まらなくていけない。小さいのを置く場合には別の脇机を置いて、それに書物などを載せて置くのはきやすいものである。芥川君などは同じい小机を二脚置いて、身近い必要のものを載せていた。僕は机の上にはなるべく物を置かない。硯とか筆以外にあまり置きたくないのである。明窓浄机を鏡とする訳ではないが何かさっぱりした気持でいたいからである。――
 
野村胡堂「書斎」 より
 今の書斎は8畳。以前は2畳の納戸だった。洋間がいいとか日本間とか、椅子でないと仕事ができないとか、障子の光がやわらかいとか……
――こんなぜいたくがいえるのは、ここ十数年のことであって、銭形を書きはじめた頃までは、借家ずまいの上に、子供は勉強ざかりであったから、親父の私には居間一つしか自由にならない。食事の時には食堂になるし女房は縫いものをひろげにかかる。
「この中で、よく書けるねえ」
 と、訪ねて来た友人が、びっくりしたが、新聞社の編集局のことを思えば、ものの数でない。
 要するに、書斎がどうのこうのというのはいいわけでなければ、見栄っぱりだ。書ける時には、どこにいても書ける。書けなくなればどこにいても書けない。――
 
 カバーの絵、林哲夫。高橋から「目次だけ見せられて、てきとうに描いて欲しいという注文」。「在り合せの文具を並べて描いた」そう。
詳細は林ブログ(左上のリンク、daily-sumus212/1212/15)を。
カバーデザイン、間村俊一
 
 
 
 プーおじさんのクリスマス(3

『サンタクロースっているんでしょうか?』 偕成社 1986年改装版 800円+税 出版社在庫あり

グレゴアール・ソロタレフ 大岡信訳 『サンタクロースの辞典』 朝日新聞社 1995年刊 出版社在庫なし
 


(平野)
 NHKの巨大書店ルポ番組を見た。悩んで本を読む人がそんなに多いとは。あえてそういう人にインタビューしたのか、そういう人のだけ放映したのか? 「ビジネス書」とか「精神世界」とか。作り手の好み?
 
 本は特効薬にはならない。読んできた本に「助けられる」ことはあるだろうと思う。
 
 元書店員としては働いている人たちのことをもっと取り上げてしかった。