2013年12月31日火曜日

猪飼野詩集


 金時鐘(キム シジョン)『猪飼野詩集』 岩波現代文庫 920円+税

1929年朝鮮元山生れ。48年南北分断内戦「済州島四・三事件」後、日本に。詩人、大阪文学学校講師、兵庫県立湊川高校朝鮮語教師。

「猪飼野」は大阪市生野区にあった町名。在日朝鮮人の集落地。地名変更で732月にその名は消えた。

「見えない町」

なくても ある町。 

そのままのままで 

なくなっている町。

電車はなるたけ 遠くを走り 

火葬場だけは すぐそこに

しつらえてある町。

みんなが知っていて

地図になく

地図にないから

日本でなく

日本でないから

消えててもよく

どうでもいいから

気ままなものよ。

……

――つい先だっての「秋夕(チュソク)」の名節(ミョンジョル、日本の旧盆にあたるお祭り日)を控えた賑いも、まさに本国と見まがうばかりの雑踏だった。韓国も朝鮮もいっしょくたにはじめけて、飾らないもともとの朝鮮が例年どおり火照っていた。「猪飼野」の民族慣習はまさしく、世代風化の気づかいをよそにより民俗的でさえある。押しあいへしあい、寄ってたかって慣習の中の「朝鮮」を引きずりだし、その時代がかった伝承を思い思いもぎとっていくのだ。「朝鮮市場通り」の賑いときたら、もはや売り買いといったどころの騒ぎではないのである。……(朝鮮の食材、薬味、海鮮物が並び、儒教遺物の祭器まで雑居)……「猪飼野」は在日世代の生理になじんだ慣習の地としてそこにある。
 
それでいて猪飼野の住人は、余裕がつけばそのイカイノを出たいと誰彼なしに思っている。……ところがなんとか抜け出せたとしても、結局はイカイノにまたも立ち戻ってイカイノでの在日世代をつないできたのだ。どうあろうと「猪飼野」は、日本暮らしの在郷の地なのである。――

 元本は、1978年東京新聞出版局刊。
 
 
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◇ 大晦日 

■ 『新編 百花譜百選』 木下杢太郎画/前川誠郎編 岩波文庫 より

「南天(なんてん) 昭和十八年十二月卅一」

 


 
 
 
 
 どうぞ良いお正月をお迎えください。
 

(平野)