■ 和田誠 『聞いたり聞かれたり』 七つ森書房 2300円+税
(その1)
● 聞いたり
Ⅰ 勝新太郎、映画を語る Ⅱ 森繁久彌、役者を語る
Ⅲ 立川談志、落語を語る Ⅳ 立川談志、映画を語る
Ⅴ 太地喜和子、舞台を語る Ⅵ 内藤陳、ヴォードビルを語る
Ⅶ 岩城宏之、手術と指揮を語る
● 聞かれたり
Ⅷ 麻雀放浪記 Ⅸ 快盗ルビイ Ⅹ 怖がる人々
Ⅺ 真夜中 Ⅻ イラストレーション塾 質問箱
和田がインタビュアーとして聞いた話、逆に和田が聞かれた話。
インタビュアーとしては、『キネマ旬報』『話の特集』で70人に話を聞いている。それぞれ本にまとまっている。また、『文藝春秋』でも会いたい人に会って話を聞いて絵と短い文章にまとめる連載も。
本書の6人は偶然みな故人。
勝新太郎
萬屋錦之介の助っ人で地方公演。久しぶりの舞台。
……
(勝)歌は歌詞を忘れちゃうでしょう。そうすると何も出てこない。芝居っていうのは台詞を忘れるとそこに間が出てきて、そこで探すっていう芸が生まれるんですよね。
(和)全体を把握していれば、台詞忘れたって困らないということですか。
(勝)そういうわけなんです。(対談でも)座頭市にものを聞いているのか勝新太郎に聞いているのか、それとも八尾の朝吉っつぁんなのか兵隊やくざなのか。その人に聞けばその人によってわたしが返事できる筈なんですよね。でなくちゃいけないわけだ、役者っていうのは。台本貰ってからその役を研究するんじゃ間に合わないわけだから。
普段のうちに暴力的な人間も育てなきゃならないし、しみったれな自分も見なくちゃいけない、気前のいい自分も。(略)なれるのかなれないのかとか、いろんな想像をしてみて、その中でいくつか持ってるわけだから、台本が来たときには即、糸を何本か引っ張ってみると、これだなっていうのがくるわけですよ。目立たないところにいる自分ていうものをまず自分でよく見る。最大唯一の監督っていうのは自分だから。
……
勝の映画制作の情熱、発想が語られる。本当に映画が好き。そして本が好きな人だったこともわかる。
森繁久彌
……
(和)日本には新劇とか、新派とか新国劇とか、いろいろなジャンルがあって、それぞれの演劇の方向があるみたいですね。
(森)それもあるんでしょうね。どうしても自分たちのほうへ引きずり込んじゃう。つまりコピーをやらせるんですね。(森繁は自由にやらせる)「お前の芝居だよ。お前が主役だよ、その瞬間は」。「ちょっとやりすぎてれば、あんたが気がつくだろう。自分で気がついた時、一段階上ってる。人から言われてやめたんじゃ、納得できないだろう」。(略)待つんです。それと、全体の雰囲気で気がつくわけですね。気がつけば素晴らしい。その時は褒めるんです。(森繁が「抑える」ことに気がついたのは映画『駅前』シリーズ)みんなやりすぎるんですね、これはひょっとすると、やらないやつが勝ちだと、ふと気づいたんですね。みんなが面白いことをやろうとするでしょ、競争して。喜劇役者ばかり集めても面白いものなんかできません。
……
面白い役者が集まってくる。彼らの私生活も面白い。暴露する。
「演技もへったくれもない」演技とスタッフの執念でできあがったテレビドラマ『恍惚の人』の話。
続く
◇ 日記 12月3日 火曜日
一日家の中。
【海】の古い資料が手元に集まっている。K前店長が書いていた社内向け情報紙『CABIN』をめくっていると、1986年7月27日の記事が目に。同月初めの衆参同日選挙で自民党が圧勝。前年廃案(自民党内からも反対あり)になった「スパイ防止法」が再上程の動き、と注意を払っている。
与党圧倒的多数は民主主義に良いものとは言えない。(平野)