■ 和田誠 『聞いたり聞かれたり』 七つ森書房 2300円+税
(その2)
立川談志
談志が「立川談志」の由来を。もとは江戸の戯作者の名前。談志で八代目か九代目にあたる。幕末・明治の“釜掘りの談志”(四代目、当時は堅川)が売れっ子になる。大正末から昭和に“俥屋の談志“と呼ばれた人がいる。その人の得意ネタ「反対俥」という噺を談志が演じて遺族に喜ばれた。
……
(談)何でなったかっていうと、三遊亭何某とかいうのが嫌いだったんだ。立川談志っていうと徳川夢声と同じような音でしょう。何でもできそうな感じがしてね。
(和)自分で選んだの?
(談)小三治だったらOK言おうと思ったけど、お前は了見が悪いっていうんで小三治くれないんだ(笑)。つばめにするっていうんだ。やだ。そしたらこれがあいてる、正蔵さんが貰ってきてやるよって。
(談志、落語を聴くのがつまらなくなった、名人のビデオでも面白くない)
(和)原因はあるの?
(談)俺が、前は落語の世界に浸ってた。落語の世界がすべてだと思ってた。それが、だんだん落語が俺にとって小さくなってきた……(略、観客動員減少、自身の政界進出もある。古典落語をうまい・うまくないで判断していたが、話自体が通じない)。
(和)たとえば郭の話なんか今わからないよね。イメージではわかるけれども、現実に知らない。ということは、古典はますますわからなくなっていくのかな。
(談)俺は、伝統を現代に、ってやってた。大雑把に自分の歴史を説明しちゃうと、最初は嫌がられてたけど、わからない部分に現代を入れて、それを定着させたと思ってます。多くの亜流を生んだと思ってます。(略)
オレの今の家元制度っていうのは――伝統と現代をセパレーツしなきゃしょうがないということなんだよ。その現代をどうしようかって言ってたら、現代を俺たちに買わせてくれって奴が出てきたわけでしょう。(他ジャンルの芸能人、文化人が弟子入り)
(和)セパレーツした部分では、自分が古典を守っていこうという気持ちはあるわけでしょう。
(談)だから、近頃、説明しなくなった
(和)俺だってへっついなんてわからなかったよ。でも、噺聴いてりゃあ、前後の脈絡でわかるんだから。
(談)落語聴きにくる奴は考えると思うよ。ちっとは考えたほうがいいんだよ。そういうギャグを使う。(親切にやると客の頭の回転が鈍くなる、適当にイマジネーション働かせろ)
……
聴いていて面白くないが、やってると面白い。工夫する楽しみ、受けないがやってみる楽しみがある、と語る。
映画の話。『幕末太陽傳』(川島雄三監督、1957年)について。
……
(和)おもしろかったねって言ったら、そうかい? って言われたことがあったね。あれは、「居残り佐平次」とか「品川心中」なんかの落語ダネを元にした映画で、評価がさだまっている作品だけど……。
(談)あれはつまんなかったけどね。あれだったら、円生のほうがよっぽどいいと思ったね。
(和)というのは、談志さんでなくても、仮にもっと上の人、小さんさんでもだれでも、やっぱりつまんないと思うかね。
(談)小さんは、つまんないと言うだろうね。(略)俺たちがやったほうがとまでは言わなくても、おもしれえか、おもしろくねえかと言われたら、つまんないと言うだろうね。
(和)あのネタをもっと克明にというか、絶妙にやってる本物の噺家の人たちをちゃんと知ってたからだろうね。
……
二人の付き合いは談志が二つ目の頃から。呑みに行くのではなく電話で映画の話をしていた。
◇ 日記 12月4日 水曜日
県立美術館「昭和モダン 絵画と文学1926-1936」。
『ほんまに』の「店長対談」ゲラ。F店長が美女二人と。ゴローちゃんがまとめ。写真はS社長。