2013年11月30日土曜日

ほんまに 第15号 ゲラ


 『ほんまに』第15号 ゲラより (その1

特集 新刊書店と本の話 〈街の本屋〉海文堂閉店に思う
 
 


 

「本屋図鑑」編集部 SJさん

……喫茶店によるような気持ちで、海文堂に行くのだった。気負わず、仕事以外のことも相談できて、一方で、棚を見ると、背筋が伸びるような気持ちのする、そんな店だった。……

(註)ホンマにこの人、営業訪問? 「彼女ができました」「ふられました」「今、お付き合いしている人がいます」……、【文芸】クマキに言いに来ていました。

 

「本屋図鑑」編集部 STさん

【海】との出会いは80年代半ば。本と音楽のことで頭がぱんぱん大阪の〈高校生〉時代。

……ふつうの本屋さんに見えた。少なくとも最初は。さすがに高校生でも、しばらくいれば気がつくのである。いつもよくいく本屋さんとは何かが違うことに。(略、船・海に関する本が目につく。宇宙船や飛行機は大好きだが船には思いはない)〈高校生〉は、自分がよく知っているつもりであった「本屋さん」に入ったはずなのに、よくわからないものがたくさん置いてあるのを見て、とまどい、変だと思ったのだ。……

〈高校生〉君は元町に来るたびに立ち寄ってくれるようになった。

 

仙台編集者 HMさん

 北海道出身、仙台で学生生活、東京に出てライター、全国取材。【海】との縁は1995年の阪神・淡路大震災。長く通い続けてくれた。2000年仙台で出版社立ち上げ。

【海】で最後に買ってくれた本は、『エンリオ・モリコーネ、自身を語る』。

「荒蝦夷」と「マカロニウエスタン」、カッコ良すぎるんちゃうん?

 

仙台書店員 ロフ子さん

 私、日本中の皆さんに謝ります。

「愛の交換日記」を公開、と私思っているのですが……

判断は読者に委ねよう。

 

 絵は須飼さんの扉絵。【児童】Tが描かれている。

 

続く。

 

(平野)

2013年11月29日金曜日

ルリユール


 村山早紀 『ルリユール』 ポプラ社 1500円+税

“Reliure” 口をとんがらせてフランス語風発音トライ。これだけでしばらく遊べます。ヒマなので。

 主人公・瑠璃。「瑠璃とルリユール」、早口言葉でも遊べます。

 

「空犬」さんの紹介で、読みたくなった。


 

 伊勢英子の絵本『ルリユールおじさん』(講談社)で有名になった単語。

瑠璃の説明は司書をしているお母さんから聞いたこと。

……

元は本というものがまだ貴重品だった頃のヨーロッパで、糸で仮綴じされただけの本や、折りたたまれただけの未綴じ本(その頃ヨーロッパでは本はそんな形で売られてもいた)を購入したひとの依頼を受け、オーダーメイドで表紙をつけたり、古くなった本をまた新しく装幀し直したりする仕事のことだったらしい。その時代、その仕事についたひとびとの手によって、革の表紙に金箔を押したり、オリジナルの版画を挿入したりと、美しい本が競うように生まれていった。本はとても高価なもの、長い年月ののちも、子孫へと受け継がれる宝物であり、財産だった。いまもヨーロッパの街角には、昔のままに、その技術を守り伝えている、職人たちがいるそうだ。

……

瑠璃は13歳、父母、姉の4人暮らし。夏休みになって、おばあちゃんのところに先にやって来た。駅に着いてすぐ本屋で分厚い児童書(上下2冊)を買う。近所では品切れだった。瑠璃ちゃん、エライ!

おばあちゃんは一人で食堂を経営している。沖縄出身で、幽霊や妖怪と話ができる一族の末裔、瑠璃もその素質があるらしい。

この街に「ルリユール」の工房があるという噂。大きな屋敷に綺麗な外国人女性――魔法使いのような雰囲気の長い赤い髪の――が住んでいる。誰もはっきりとその場所を知らない。でも、お母さんが書いてくれた地図には「謎の屋敷」とある。

おばあちゃん、瑠璃が来る直前に階段から落ちて入院した。犬の次郎さんと留守番。おばあちゃんの病院に行って、次郎さんの世話をして、ご飯作って、家に電話するのも忘れて眠ってしまう。

瑠璃はいつの間にか人通りのない石畳の道を裸足で歩いていた。大きな屋敷の門、黒猫がしゃべる。庭に入る。美しい人が立っていた。

夢? 小さい頃夢遊病だった。

現実に戻って、お母さんの地図のとおり、坂の上に大きな屋敷があった。

「ルリユール黒猫工房 クラウディアが魔法で本を作ります」の看板。

ほんとうに魔法使い?

本を愛する人たちが彼女に本の修復を依頼する。

瑠璃は彼女にルリユールになりたいと申し出る。

 

「魔法じゃないんですか?」

「瑠璃ちゃん、具体的には何ができるようになりたいのかしら?」

「本を治す方法をいろいろ知りたいです。あと、できれば、綺麗な本を作ることができるようになればいいな、って」

「どんな本を、誰のために作るのか、それを考えてね。それが本作りの第一歩、スタート地点なんだから」

「誰のため――?」

「世界中の本は、すべからく誰かのために生まれてくるものです」

 

 本を愛する心やさしい人たちのファンタジー。大冒険物語ではないけれど(少しだけ魔法の世界で危険に遭う)、クラウディアの波乱の境遇、そして瑠璃の大切な家族の話も。

 

 クラウディアは長く生き続けて、そのことに飽きていた。瑠璃と出会って決意新に。

……

こんな自分でも、こんな自分の持つ技術でも、この子を喜ばせることができるのなら。

自分という本に刻まれた言葉を知識を思いを、この子に伝えることができるのなら。

生きてみよう、と思った。

もう鼓動を打たない心臓しかこの胸にはないけれど、それでももう一度、生きてみよう。
……

 もっとエピソードを紹介したいけど、読者の楽しみを奪ってはいけない。
 
(平野)

2013年11月28日木曜日

99歳一日一言


 むのたけじ 『99歳一日一言』 岩波新書 720円+税

……ふと自分の背中につながる道を振り返って、

「結局は物書き職人の一生だったな」

とつぶやく。この言葉には何の感慨もない。事実を言っているだけだ。……

 
 
 むのたけじ(武野武治)、1915年秋田県生まれ。36年東京外国語学校卒業、報知新聞社入社。40年朝日新聞社会部に移り、従軍取材も。45年新聞人として戦争責任を取り退社。48年秋田県横手市で『週刊たいまつ』創刊。農業、教育問題を取り上げ、反戦を訴え続けた。78年休刊。今なお現役のジャーナリスト。

『たいまつ』紙面に「意味の深い短句」を載せていたのだが、ずっと色紙やノートに「自分の認識と思慮」を書いてきた。子息が整理しながら目を通す。「父親の一生の歩みでつかんだ生活の知恵、心得、反省を子らに語っている、親子関係を抜きにして世間の人たちにも役立つ」と思って、本作りに協力。語句を季節のイメージで分けて365日に配分した。

 

 一月一日

拝むなら自分を拝め。

賽銭出すなら自分に渡せ。

自分をいたわれ。

自分こそ一切の原点。

 

説教臭い「金言集」「成功語録」と思われそうだが、私はひとつずつ詩として読んだ。

一〇月一九日

近所の子らへ私は自分から朝夕の挨拶をする。

顔なじみとなった一少女と他の町で会った。

少女は「おじさん」と自分から走り寄ってきた。

行動は行動を誘い、行為は行為を産む。

 
 
 老ジャーナリストの警告。

 一一月二八日

議案の採否を多数決で決まるやり方は、人間の仕事の仕方では極めて大雑把で、単純でヒヤミコキ(怠慢)だ。見わたすところ世界中の団体・組織のほぼ九割は多数決で議事の処理をしている。だから、御覧なさい。社会の九割はいつも薄暗くて、じめじめしていて臭い。(略、ガリレオの地動説、たった一人のおかげで全人類が大馬鹿の底に沈む恥を免れた事実を思い出せ)議事の始末は賛成と反対の数量によってではなく、どれが物事の道理に合うか合わないかで決めることだ。そのために丹念に努力して、緻密に苦労を重ねて納得するまで努力することだ。すると、この世の九割はたちまち明るくさわやかになって、いつも芳香に満ちている。

 

 むのは一貫して「革新」の立場だが、「保守」を軽蔑しない。それどころか「学習する保守」を尊敬し感謝している。「保守」の牙城・横手で新聞発行が続けられたのは色々な組織・個人の支えがあったから。「保守」の人びとも立場を越えて「学ぼうという情熱」で支援してくれた。『たいまつ十六年』出版の時、出版祝賀会を開いてくれたのは地域の行政・商工界の中心人物3名。どうして? と訊くと、

「たいまつは、おらだちの敵だ。だからつぶすわけにいかぬ」

 
 50年前のこと。

 八月三一日

……対立する相互関係をまっすぐに認めて、だから、ヘマはやれない。相手にも学んで前進しなければ、という態度だとしたら、それこそは状況を変える力の芽生えではないか。いま憎み合う悲劇が地上のあちこちに続発している。どうしたらいいだろうか。私が対立する立場の人たちから受けた言葉の本体を平がなで書けば、「てきだから、つぶされぬ」というたった一〇字の一句だ。この中に悲劇を他のものに変えるカギの一つが存在している。
 
(平野)

2013年11月27日水曜日

ぽかん


 『ぽかん 03』 ぽかん編集室 900円(税込)

 林哲夫さんのブログで見たのは10月末。24日ようやく【トンカ】で入手。


 袋入り3点、どれが本誌や?



一番小さいのが『ぽかん』。左下に小さく誌名があった。


http://pokan00.blogspot.jp/



名付け親になる話  山田稔

多喜さん漫筆(三)――色恋の談義  外村彰

天童のゐる五分間写生  澤村潤一郎

小樽余市訪問記――左川ちかのこと  中野もえぎ

『わが青春の詩人たち』  真治彩

サウダージ  福田和美

千代田区猿楽町1-2-4(其の一)  内堀弘

(付録)ぼくの百  千葉直哉

コラージュ(本誌・付録) 林哲夫


(付録)のんしゃらん通信

窓口をめぐりたどりつく先は  郷田貴子

折々ありぬ  藤田裕介

夏のお姉さん  近代ナリコ

子供は判ってくれない  中山亜弓

インテリア・エクステリア  能邨陽子

お濠を眺めて、紅茶を飲む  藤田加奈子

イラスト  西松実千代


「名付け親になる話」は本誌命名のこと。真治編集長に頼まれて、ぱっとうかんだ名前が「こないだ」と「ぽかん」。

前者は山田がエッセイで書いた自らのくせ。友人に会うと「こないだはどうも」と前置きして以前の出来ごとを蒸し返す。真治がその「こないだ」が好きだと山田に手紙を書いた。

後者は短篇小説の題。老文学青年が仲間を集め同人誌をはじめる相談。冗談から「ぽかん」が誌名にきまる。

「ぽかん」というのは、私たちの年代も子どもの頃にやったショーモナイ遊びというかカラカイ。考え事やボーッとしている友だちに「なあなあ」と話しかけて、「なんや」とこっちを見る相手の目の前で軽く握った手のひらを広げて「ポッカーン」と応じる。相手が忘れた頃にまたやる。やり返す。

真治は「ぽかん」を選んだ。

山田は「こないだ」を気に入っていて、これで同人誌を出そうと思いつく。むかしの仲間に呼びかける、参加の返事がとどくのだが……

おもろうて悲しいお話。




【編集後記】……

手紙を書くのがすきだ。いつだって手紙を送る相手をさがしている。(便箋、封筒、ペン、インクの色、切手など)おもいを巡らせる時間が楽しくてしかたがない。雑誌をつくるのはそんな気持ちとすこし似ている。……

 ほんまに900円でできるのか?



(平野)

2013年11月26日火曜日

徒然草


 嵐山光三郎 『現代語訳 徒然草』 岩波現代文庫 740円+税 

 あんまり思い出したくない「古典」の授業。

 

 つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ

 嵐山はこの書き出しを、吉田兼好が「一番最後に書きたしたもの」と。

 

 兼好は出家前、堀川大臣家の家司(けいし)=学芸員・事務員・秘書官。堀川家の娘が皇子・邦良(くによし)親王の母。兼好は親王の教育役だった。

……

『徒然草』は邦良親王がりっぱな天皇になるためのテキストとして書きはじめられました。『徒然草』」の最初が君主論で、教訓的であるのはそのためです。

……

 しかし、親王は正中三年(130627歳で亡くなる。

 本書では、各段に「兼好・かげの声」として、彼の本音(段によって反対のことを書いていることもある)を補足。
 

……

 たいくつしのぎに、一日中すずりにむかって、つぎからつぎにうかんでくることを書くことにした。とりとめもない話だから、書くわたしのほうだってへんな気分になる。

かげの声――というのは、まっかなうそで、これは帝王学なのだ。(親王が皇位につくため)人間の本能・本性・心理・恋愛・旅・音楽などに関して、わたしが知りえたことを書きつくそうと思っている。(略、へそ曲がりだから、そのときの気分でいうことが変わるが、真実には二つの面があることを学べ。書き出しもとぼけてみた。わたしの話には裏がある。)

……

 

第一段   天皇はまことにりっぱな地位。男として身につけたいのは真の学問の道。漢詩、和歌、音楽、古典、礼儀作法。人の模範になり、文字がじょうずで、声がよく、リーダーシップをとる。酒をすすめられたら、遠慮しながらもちょっとだけは飲めるくらいにする。

第二段   むかしのえらい天皇の教えを忘れてはいけない。

第三段   恋愛

第四段   仏の道

第五段   理想の生活

子どもはなくてもいい、人間はいつ死ぬかわからない、人の心はおろかなもの、読書、歌、生活は質素に、などなど。

 第百三十七段で、桜や月、祭りなど「美」には始めと終わりがある、人の生死にかかわっていると説く。親王の死。

 
……

 年が若い者にも、からだがじょうぶな者にも、おもいがけぬ死がやってくる。きょうまで死なずにすんだことのほうがふしぎなのだ、と思わなければならない。(略)武士が戦場にむかうときは、死に直面するから、家のことも自分のことも忘れる。ところが、世俗をはなれて草庵の生活を楽しんでいると、死はこんな静かなところとは無関係だと思ってしまう。静かな山のおくであっても死という敵はかならず攻めてくるんだ。

かげの声――ひとの世のはかなさ、無常を説いてきたわたしだが、これはつらかったよ。いっそ『徒然草』を書くのをやめようと思ったほどだ。しかしわたしは書きつづけることにした。それはこの書を、この世の心あるすべての人にささげようという決意からだ。草庵に住むわたしは、戦場にむかう武士が死にたいするのとおなじ覚悟で、日々心にうつることを書きとどめておくことにした。

……

 ちょうど鎌倉幕府末期、動乱の時代。

 

 兼好さん、お酒がお好きだったよう。失敗経験もある。酒席のこと、酒グセの悪い男のこと、酒飲みの心得などを書いている。

第二百十五段では「いい酒」のことを。ある歌人が若い頃、時の執権から夜遅くに呼び出された。用意に手間取っていると催促の使いまで来た。執権「ひとり飲むのがさびしい」、歌人に肴をさがしてくれと頼む。台所に味噌が少しついた皿があったので持って行くと、「それで十分」と。歌人、じつにいい酒であったと思い出話。

元本は、2001年『嵐山光三郎の徒然草/三木卓の方丈記』(講談社)。
 
(平野)

2013年11月25日月曜日

ほんまに 第15号


 『ほんまに』第15号 1220日頃 発売予定 500円(税込)
くとうてん発行

特集:新刊書店と本の話 [街の本屋]海文堂書店閉店に思う  

 豪華(?)執筆陣です。表紙の絵は須飼秀和さん、マチガイ、表紙はゴローちゃんで扉が須飼さんです。訂正します。

 売れっ子美女作家複数参加。難解学者に切れ者編集者、女子の古本屋、現役男前&美人で才女書店員に、ポンコツ元書店員……、特選ミソと少しだけク○がごった煮、「ほんまに」でしか、「ほんまに」だからこそ、のラインナップ。詳細続報。

 なかよしの本屋さん、古本屋さんに置いてもらえるようお願いをします。

予約受付は今のところ「くとうてん」サイトのみです。こちらから。


 

 日記 1124日 日曜日


 
 
ワイン木箱の古本市「百窓市」
 
 開場から満員状態。
 私、北野の坂の上まで歩いて来たのと、会場の熱気で大汗。
 
 
 
【海】のお客さんたちにお会いできた。思わず握手した。抱擁はしてない。お話したこともない方に話しかけて驚かせてしまった。失礼しました。

 古本達人の方々も多数。古書波止場の看板娘にも会えた。

【海】関係者の古本一代となり古書店。会えなかった。
 壁面の本は会場=お寺さんの蔵書。

 



ギャラリー島田の「INFORMATION12月号の「美の散歩道」に寄稿。
 
  


(平野)

2013年11月24日日曜日

イーハトーボの劇列車

 
 

◇ 日記 11月23日 土曜日
 日記に「妻」と書くと怒られるのでと西宮北口・県立芸術文化センター。

「イーハトーボの劇列車」井上ひさし作、鵜山仁演出 

出演、井上芳雄、辻萬長、大和田美帆、木野花、他 
井上ひさし版「宮沢賢治」評伝。
パンフレットより
……
 賢治は、東京に理想郷を求めては挫折を繰り返し、九度の上京の中でいつしか花巻に理想郷を見いだす。東京での出来事と上京する列車の中で賢治の童話から抜け出たような人物たちと織りなす夢のような時間が交差する。そして挫折の度に突然現れる背の高い、赤い帽子の車掌から手渡される「思い残し切符」とは……

……

 文学、音楽、農業・肥料研究、理想郷、エスペラント、法華経……。父の重圧と父への依存、妹の病……。賢治の才能、思想、苦悩。現在も続く食と農、それに「東北」の問題。

 最後に死の世界に旅立つ農民たちが語る。

 出稼ぎ農民。都会に行って金を稼いで納屋に耕作機械が並んでいる。

「この鉄の塊のために、おれは一年の半分近くも家を留守にしなければならなかったのか。……

機械めがけて頭をぶつけた。

妻たちは半年後家、男女の誤ちで自殺。

「百姓のおかみさん、冬も父ちゃんと一緒にいるように!」

米が高いと、テレビで都会の主婦が言っている。美容院やレストランで高いお金を使うのに。農民たち、口惜しくて酒飲んで灰皿ひっくり返して焼死。

「もはや米を必要としないのだ。必要じゃないから高いと思えて仕方がない。日本人はもう農村を必要としない」

寿命をまっとうした老人、「思い残すことはない。いや、待てよ。わしの寿命の三分の一を倅に、三分の一を妹にわけてやりたかったな。倅は二十歳で戦死した。妹は女郎に行った。兵隊と女郎と米、それから工員、これを村はいつも中央へ提供しておった。もう、やめた方がいい」。

賢治と思われる男、
「ひろばがあればなあ。村の人びとが祭をしたり、談合をぶったり、神楽や鹿踊をたのしんだり、とにかく村の中心になるひろばがあればどんなにいいかしれやしない……。日本では永久に無理かな」

死の世界の女車掌が答える。
「どんな村もそれぞれが世界の中心になればいいのだわ。そして農民がトキーオ(エスペラントで東京)やセンダード(仙台)やモリーオ(盛岡)の方を向かなくなる日がくれば、自然に、村の中心に広場ができるわ。だって農民は村をみつめるしかなくなるもの」

賢治らしき男、
「なるほどね。これからは百姓も頭がよくならなければだめだな」。
 
 本は単行本・文庫とも絶版。読めるのは『井上ひさし全芝居 その三』(新潮社)。



「みなと元町TOWN NEWS (みなと元町タウン協議会発行のフリーペーパー、A44ページ、商店街各所で配布)NO.256から連載開始しました。
「【海】という名の本屋が消えた」 
(平野)
 
 
 

2013年11月23日土曜日

ふるさと銀河線


 髙田郁 『ふるさと銀河線 軌道春秋』 双葉文庫 600円+税 

 髙田郁、初の現代家族小説9編。元は、小説デビュー前に「川富士立夏」の名前で書いた漫画原作「軌道春秋」。1999年~2004年「YOU」(集英社、漫画・深沢かすみ)連載。

 鉄道・沿線風景を織り込んだ人情物。ほとんどの作品に、髙田らしい質素だが暖かい食べ物が脇役として一味加える。

 
「お弁当ふたつ」

 佐和は中年メタボの夫のために毎日弁当を作る。ある日、ママ友とランチのあと、夫の会社に差し入れを持参。受付嬢に名乗ると、退職したと告げられる。顔なじみの部下がいたので事情を訊ねる。リストラ、それも2ヵ月前のこと。夫は毎朝弁当を持ってどこに行って帰ってくるのか? 翌日、夫のあとを追う。千葉まで行き、外房線・内房線で房総半島を2周、車内で弁当。子どもが小さい頃、海水浴に行くのに乗った電車。次の日、佐和はもうひとつ弁当を作って、夫のあとを……

 
「車窓家族」

 阪神間の私鉄沿線。電車が信号待ちで止ると車内から文化住宅の部屋の様子が見える。時間はまちまちだが、その部屋の老夫婦を気にする乗客たちがいる。食卓の料理が見えてそれを食べたくなる人、繕いものをしている老婆の姿に故郷の母親を重ねる人、老夫婦の笑い顔に亡き夫との歳月を想う人……、計5人。大寒を過ぎた頃、彼らが偶然同じ車両に乗り合わす。いつもの信号待ち。あの窓に明かりがついていない。2日連続らしい。5人がそれぞれ心配して、いつのまにか会話を交わしだす。しばらくすると、

……

「あ、明かりが」。

 あの部屋から眩い光が溢れていた。

「ああ、電灯が新しなって……

……

 皆安堵、バンザイをする若者も。

 

 表題作「ふるさと銀河線」は北海道東部の「ちほく高原鉄道」(現在「ふるさと銀河線りくべつ鉄道」)が舞台。

 中3の星子(せいこ)は両親を交通事故で亡くし、鉄道運転士の兄と暮らす。高校受験は公立の福祉科志望、地元で働くと決めている。星子は全国演劇コンクールで優勝の実績があり、兄も先生もその才能を伸ばしてほしいと思っている。

星子、自分が書いた独り芝居「銀河鉄道の夜」の台詞が口に出そうになる。

――ぼくたちは何処までだって行ける切符を持っているんだ

――カムパルネラ、ぼくたち一緒に行こう――

兄を置いて町を離れる決心がつかない。

体験学習で顔なじみの天文台の技師が話してくれる。彼は東京の老舗の跡取りだが、自分の夢に進んだ。家族も許してくれた。

……

「町を去るひともあれば、戻るひともある。僕のように、新たにこの町に来るひとだっている。それでも、故郷に心棒を持たないひとはいないし、心棒があるからこそ、人は羽ばたく勇気をもてるんだと思う」

 羽ばたく勇気、と低い声で星子は繰り返した。(略)

――ぼくたちは何処までだって行ける切符を持っているんだ――

 独り芝居の自身の台詞が、はっきりと耳に届く。

「羽ばたく勇気……

 星子はもう一度、繰り返した。

……

 

 離れて暮らす祖父を訪ねる家出孫、亡くなった息子の思い出を辿る両親、仕事と青春の郷愁、夫婦別居、ひとり暮しの母のアルツハイマー……、さまざまな家族愛、友情が描かれる。

  コミック版も12月、同社より。

 

 日記 1122日 金曜日

 ハローワーク行って、J堂で岩波新書買って、映画見て、「くとうてん」でゴローちゃんとだべって編集長に見とれて【ほんまに】ゲラ見せてもらって鳥瞰図絵師のノート買って、元町商店街の事務所で「TOWN NEWS」もらって、6丁目で北播磨の野菜買って、帰ってボーっとしていたら「ギャラリー島田」から通信が届いて夕飯の仕度しようとしたら元同僚クマキからメール来て返事書いていたら仕度すっかり忘れとった、という一日。
「百窓市」いよいよ24日。
https://twitter.com/enfant507/status/395418418859364352/photo/1

(平野)