2014年2月16日日曜日

土屋耕一のガラクタ箱


 『土屋耕一のガラクタ箱』 ちくま文庫 840円+税

 土屋(19302009)、東京生まれ、コピーライター。

カバーは同僚・和田誠がスケッチした土屋の姿。

本書は広告の作り方から始まる。
出題、〈帽子屋さんが若い人たちに帽子をかぶってもらいたい、そのためのキャッチフレーズを〉、制限時間5分。

 

(1)   「スカットさわやか~」のようなものまねダメ。どこかで聞いたことのあるもの、原型をひねったものなど、失格。

(2)   「若い」にひっかかって「イカス」「カッコいい」などは「帽子をかぶってキチンとしたいオトナには全く無縁」で、失格。

(3)   「ハイセンス」など横文字を使えばいいというのは見当違い、失格。

(4)   「今日は中折れあしたはベレエ」という七五調は「語呂がよすぎて、言葉がツルツルすべって~」失格。

(5)   七五調を徹底して都々逸調、素人の旦那芸。

(6)   カルタ調。審査段階で残るだろうが、入選までいかない。

(7)   駄ジャレ、面白く楽しくよく活用されるが実際には使えない。「ボサボサ頭を帽子で防止」はかなりいいほうだが小粒。もう少しフトコロのひろい表現、世の中をうごかすようなダイナミックな力を。

 ということで、

8)〈810日はハットの日です〉 着想のスケール。

〈帽子も入れて四つ揃い〉 三つ揃いに帽子というアイデア。

〈帽子で命を拾った人がいます〉 不安をつく手法。

正解というものはないが、これくらいなら合格点。
 プロとして戒める。失格も含めすべて土屋が鼻歌まじりで作った、お遊びのフレーズ。
――お金をいただくプロフェッショナルの仕事は、こんな草野球なみのスローボールでは通用しないこともお忘れなく。――(「話の特集」1967.2

 センスや発想力は鍛えることができるのか? 凡人は無理なので〈言葉遊び〉を楽しむ。

 アナグラムで俳句。

〈古池や蛙とびこむ水の音 芭蕉〉

数の子や水気を問わむいと古び 土屋

 仲間も挑戦してきた。

わずか見むふやけ男のビイトルズ 岩永嘉弘

 負けじと土屋。

お岩跳びずずと毛のこる闇深む

 
「軽い機敏な仔猫何匹いるか」の回文でも有名。
〈新年誌〉〈快晴盛夏〉など短いものから80字におよぶ大作もある。
「なんとなく始めてみて、なんとなく続けているだけ……」、「ひとつの休息」と言う。
「頭の中でコマを回したまま休む」状態。プロの凄み。

 私好みの下ネタ。

〈たまるサルマタ〉

〈抱きあったこの部屋へのこ立つ秋だ〉

〈にたにたし野糞いそぐ野、下に谷〉

 長いのが色っぽい。本書をご覧ください。

 解説:松家仁之

――ふだんは無口な親方が、うまい鮨の握りかたについて、お客さんの迎えかたについて、淡々と、虚飾ぬきでじっくり話してくれたようなものなのだ。――

(平野)