■ 稲垣足穂 『ミシンと蝙蝠傘』 中央公論社 1972年12月刊
装幀・挿画 山本美智代
目次 ミシンと蝙蝠傘 天守閣とミナレット 墜落 稲生家=化物コンクール
表題作、明石での小学生時代、性の目覚め。
近所の仲よしの年長者・ブンちゃんが私を手招きする。
「オレ、こんど倶楽部を作ったんや。みんなはいっているからキミも加入しないか」そう云いながら、私の学校仲間の二、三人の名が挙げられた。その会へはいると、顔がきれいになる。人から好かれるようになると、付け加えられた。何を為る会かと訊ねると、「それは」と受け継ぎながら、「あれを知っているか」「あれって何?」「知っているんだろう」「知らない」「本当に知らんのやな。嘘ついているのと違うか?」「いや、本当に知らん」「そうか。そんなら云うが、一番初めがオや。もう判ったろう」……
男女のコトではなく男同士のコトだった。
「手術台におけるミシンと蝙蝠傘との不意の出会いのように美しい」
私は、この有名なコトバを、只それだけの奇抜な表現だと思っていた。あるいは又、「ミシンは女性を意味し、蝙蝠傘はペニスのことだ」という解説を以て、「なるほど、そういうことにもなるのだろう」と漫然と受取っていた。ところがそうでなかった。これはイジドール=デュカス『マルドロールの歌』第九歌、美少年メルヴィンの美を讃える文句の、一等お終いにあるということが、初めて判った。……
(平野)