2014年5月18日日曜日

愛書狂 白水社版

 平凡社ライブラリーになっていた。

 生田耕作編訳 『愛書狂』 白水社 198012月刊 (所有は8112刷)

愛書狂  G・フローベール
稀覯本余話  A・デュマ
ビブリオマニア  Ch・ノディエ
愛書家地獄  Ch・アスリノー
愛書家煉獄  A・ラング

フランスの愛書家たち  作者紹介  訳註  あとがき

挿絵 O・ロザンヌ『パリの猟書家』から
装幀 野中ユリ

あとがきより。

……古本道楽の黄金時代、十九世紀フランスの名だたる書物狂いが遺した〈愛書小説〉の名篇を拾い集め、ささやかな一本を編み、この高貴な業病に斃れた不幸なる少数者の鎮魂に捧げたい。併せてわれら同病相憐れむ仲間の慰藉の具ともならば幸いである。

 A・ラングはイギリス人。

「愛書狂」はフローベール15歳の作品。実際に似た事件があったらしい。
 バルセロナの本屋のおやじ・ジャコモ、年は30そこそこながら見た目は老人のよう。腰は曲がり、頭は白髪、手はひからびシワだらけ、顔面蒼白。身なりはみすぼらしく、陰気。本の競売(いち)になると、目を輝かせ駆けずりまわり、感情をあらわにする

……ただひとつの考え、ただひとつの愛情、ただひとつの情熱しか持ち合わせていなかったのだ。要するに書物のこと以外頭になかった。そしてこの愛情、この情熱が身内で彼を焼きつくし、その寿命を擦りへらし、生活を蝕んでいたのである。……

 頁をくり、撫で、表紙や活字やインキや綴じ目を調べ、置く場所を変えて何時間も見とれる。書物の匂いとともに塵まで嗅ぎ取る。書物の内容の価値・学問を愛しているのではない。

……書物を愛する理由は、それが書物であるから、つまりその匂いや、体裁や、表題を愛したのだ。

 お気に入りの手写本を高値で手放したが、悔しくて泣く。競売にでた稀覯本をライバルに落とされ、街を狂ったようにさまよう。
 手写本を買った男が殺された事件、ライバルの店が火事になった事件、どちらもジャコモが犯人にされる。彼は命よりも書物の希少性を選ぶ。死刑判決後、無罪の証拠になるかもしれない書物を引き裂いた。

「弁護士さん、あんたは嘘つきだ! ほら私が言ったとおりだ、あの本はスペインに1冊しかないんだ!」
(平野)