2014年5月19日月曜日

本の正坐


 寿岳文章 『本の正坐――独語と対談』 芸艸堂 1986年(昭和612月刊


装幀 栃折久美子

独語――書物美の原点  美しい本とは  装幀問答  装本について  造本あれこれ  見直そう本の原点を  和紙とわたくし  和紙礼讃  和紙の工芸性  和紙復興
対談――装幀と和紙を語る
西洋の本・日本の本  布川角左衛門・広瀬正雄
美しい本  栃折久美子
和紙の美  松岡英夫



 寿岳文章(じゅがくぶんしょう 19001992)、兵庫県明石郡(現・神戸市西区)生まれ、英文学者、書誌学、和紙研究。関西の大学で教鞭、1952年から69年まで甲南大学教授。ダンテ『神曲』翻訳で読売文学賞。

「序」より。

「独語」 大正末から昭和初め、柳宗悦と親交、民芸運動の書物工芸部門の共労者”となり、月刊誌『工芸』に発表した書物論。当時耳を傾けてくれる人は稀だったと言う。
 美しい書物は同時に正しい書物であらねばならない。この見やすい道理を、どうして世間の人たちは見ようとしないのか。書物の内容が正しく――それぞれの領域に於いて正しくなければ、長い時代の批判に耐えられない。身は聖霊の宮なるがゆえに尊く、書物は不滅の生命を盛る器なるがゆえに貴い。美しい書物を作ろうと思う者は、何よりもまず正しい内容を求めねばならぬ。
 正しさは唯内容にのみ顕れるのではない。人の装いにも正しい美しさが宿るように、書物の装いにも、また正しさが宿る。内に邪念がなくても、これを正しく包まなければ、正しい内容も醜く見えるだろう。……

「対談」 戦後の言論界は自主的な対談や討論が思想表現の主役になり、「書物自体も生き生きしてきた」。お相手は、寿岳が信頼する本造り・本売りの有識者。

 戦前には夢にも見なかった「多彩で闊達な光景」だが、

……戦前の旧体制は根絶したのではなく、いまわしいその亡霊のよみがえりさえ懸念されるのを、書物の共和国人は銘記せよ、誰よりもきびしく、強烈に!
 巷にはいま、ニュー・メディアに直面する書物の現在と将来をあげつらう論議がかまびすしい。それもよろしい。大いによろしい。しかし、言語と文字をもつ人類が、かけがえのないこの地球上の随所で、永い年月をかけて造りあげてきた文化遺産である現在の書物を、ポイ棄ての消費財なみに扱うようなことは、核兵器同様、絶対にゆるされてはならない自殺・自滅の愚のきわみだと、私は強く堅く信ずる。いつ、どこにもせよ、書物は、その内容と外装において、人間のロゴスとパトスが要請する最善の耐久文化財であらねばならぬ。本造り、本売りには、人類最高の英知が集約さるべきであろう。……

(平野)
 地下発見本。
 新米時代、この版元名を読めなかった。先輩に思いっきりバカにされた。他にも難読社名・人名があったが、その都度告白しよう。