2014年10月11日土曜日

電氣ホテル


 吉田篤弘 『電氣ホテル』 文藝春秋 1750円+税

200708年『別冊文藝春秋』連載。

 まず登場するのは二人の詩人。上田オルドバ、上田シャバダ。詩人タッグ〈ブラック〉を結成。オルドバは停電研究、猿の中也と調査旅行。中也は「上田」「停電調査」「果物」3つの言葉を話し、毛糸の靴下を好む。泊った宿屋の番頭、物分かりよく、町の歴史に名物海老話、さらにオルドバの本『停電論』を一読理解。翌朝、オルドバと中也がタクシーに乗って「駅まで」と言えば、運転手は同じ言葉を2度繰り返す。空間飛び越え映画館に。スクリーンの画面にタイトル〈電ル〉。シャバダは中学の四十ヶ原先生にすすめられてナレーター稼業。元吊輪の選手、先生辞めてタクシー運転手を経てバーの主人。シャバダも旅に出たいが仕事で行けぬ。アパート帰って風呂から出れば、見たこともないキャシャな女性、「ようこそ、付いてきて」と言われて2階へ。
 闘牛士風の男二人、フィルム手配師。モンドリアンは長身・痩身・病身。シノゴノは丸型体型だがダンサーで身軽。運搬は駱駝シンガリ、しゃべる、唾吐く、怒りんぼ。……

次々出現する奇人変人怪人怪物、ドタバタの様相。言葉遊びに連続失踪事件に空間移動、奇想天外ストーリー。
 次第に〈クラフト・エヴィング商會〉の術中に引っ張り込まれて行く。私の堅い脳みそは、寅さん的喜劇と勧善懲悪時代劇しか想像できない。前衛演劇と思って読む。

 終り近くになって〈電氣ホテル〉が実在したとある。いやいや『ないもの、あります』の〈クラフト・エヴィング〉、騙されてはいけない。

失踪事件の謎を追っていた中田(探偵、しゃべる探偵犬・終列車同行)に、ビワブキ(図書館司書)が推理を披露。麻酔を打たれた女性たちは2階にトリップしている、ホテルのオーナーによって頭だけが吸い取られている、と。

「ホテルの?」
「電氣ホテルだ。……鸚鵡返せ」
「は? ……鸚鵡返しは知っていますが、オウムガエセなんて言葉はありません」
「さぁ、そこだ名探偵。そうした存在しない言葉が出現するときこそ要注意なのだ。何故なら、私は言葉をねじ曲げてでもそいつを言いたい。だからよいか。今すぐ速やかに鸚鵡返せ」
「何をです?」
「電氣ホテルだ」
「電氣ホテル?」
「そう、その調子だ。今のはいい鸚鵡返しだったぞ。分かるか、中田君。我々が執拗に言葉をやりとりすることで、存在しない言葉や存在しないものが徐々に立ち上がってゆく。そもそも、推理とはそうしたものではなかったか。そして、次々と立ち上がってゆく支離滅裂なそれらの中に、じつは確たるものが混在している。それを見逃してはならん。今ここで一例をあげれば、電氣ホテルだ」
「電氣ホテルが?」
「いいぞ、中田君。その調子だ。こうして我々が電氣ホテル電氣ホテルと連呼すれば、あたかも存在しないようなそのホテルが、じつのところ、下谷区下車坂町十一番地に存在していたことが判明する。これはデタラメではなく事実なのだ。(略)

平野)
 最後まで読んだら〈登場人物名鑑〉が付いていた。最初に気づけよ!
「電氣ホテル」のパンフレットまで掲載している。やっぱり実在? 
 あかんで、信じたら。「ないもの」簡単に作れる人らやで。
 こっちは騙されるのを楽しんでるし。
 カバーはずすと、文字が並んでいる。……――第二幕――幕間劇……とある。虫眼鏡で読む。
 それでも「実在かも?」と「日本観光史」HPを見たら〈上野〉の年表に「電気ホテル」の名称があった。信じる?
http://web2.nazca.co.jp/xu3867/index.html

 ヨソサマのイベント

 百窓文庫の文化教室「北野吟行句会」
113日(文化の日、月曜日)10時から15時頃まで
北野・浄福寺  参加費1500
講師 俳人・津川絵里子
 詳細は下記を。
http://hundredswing.wordpress.com/2014/10/09/ginko-2/

「daily‐sumus2」「メリーゴーランド小さな古本市」の案内。参加店のなかに「かいぶんどう古書部」の名がある。
http://sumus2013.exblog.jp/