2014年12月3日水曜日

言葉なんかおぼえるんじゃなかった


 田村隆一(語り)・長薗安浩(文)

『言葉なんかおぼえるんじゃなかった 詩人からの伝言』 ちくま文庫 880円+税 201411月刊
 1996年刊『詩人からの伝言』(メディアファクトリー)を再構成。
 田村隆一(19231998)東京生まれ、詩人。アガサ・クリスティーの翻訳でも知られる。長薗は『ダ・ヴィンチ』元編集長、創刊から2年「詩人からの伝言」を連載。解説・穂村弘。俳優・山﨑努「田村の隆ちゃん」寄稿。山﨑と長薗の対談も。
 結婚、別れ、美人、酒、教養などをテーマにして若者に語りかける。

「第四話 酒」
 旅先では地酒を飲んで土地の文化を知る、酒は愉しく飲むなど、酒についての信条を語り、酒に対しての礼儀を話す。

……酒を愛するということさ。男が女を愛するごとく。女が男を愛するごとく。だから、酒を愛するコツは、酒と会話することさ。(略)
 あなたも、愛する人と言葉をかわすように、酒とつきあってください。そうすりゃ、嫌でもマナーは良くなるんです。
 愛する人の前では、そうそう無礼はできない。そうだろう。
 なっ。

 この「なっ」で締めくくられる。
 

 書名は田村の詩「帰途」から。

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きていたら
どんなによかったか
 
あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ
 
あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
僕たちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう
 
あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか
 
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる
 1956年『ユリイカ』に発表。
(平野)
J堂で元町の老舗社長に遭遇。気さくに話をしてくださる。
「あんたとこがなくなって困ってんねんで!」
そんなん私に言われても~。