2014年9月30日火曜日

「翼」 鉄筆文庫



 白石一文 『翼』 鉄筆文庫 600円+税

カバー装画 キリハリエ・Emi

表紙絵 井上よう子「希望の光り」 【海】イベントに協力してくださった画家。
 

 

 恋愛小説だが、「恋」というには男性が立場や相手の事情もわきまえず、あまりに一方的に思いを告げる。
 ヒロインは一流企業営業レディ・理江子、男性は親友・聖子(きよこ)の夫・岳志。10年ぶりの再会。過去にも、彼は聖子と恋愛中にもかかわらず、理江子に告白をし、理江子は二人から遠ざかることにした。
 10年の間に、二人共仕事やら家族問題などいろいろある。

 理江子は二人きりで会うことをためらい、家庭訪問。しかし、岳志と食事をするようになる。自分の過去や、元上司と創業者家族との不倫問題、岳志の過去の自殺未遂など、男女の愛の問題、死と記憶について考える。  
 岳志は聖子に離婚を願い出る。理江子はまた二人から離れてアメリカに。
 どうしようもなく好きな人ができてしまったら、諦めるべきか、貫くべきか。
 岳志は貫きたいと思った。理江子を「運命の人」と考えた。「翼」を持って飛びたかった。
 理江子も彼を救わなければ、と思った。
 岳志は聖子を説得できず、致死量の塩化カリウムを自らの腕に打った。

 鉄筆文庫7月創刊、本書が第一作。発行者・渡辺浩章は元・光文社編集者。


「創刊の辞」より。

 喉元過ぎれば熱さを忘れる……この国では、戦禍も災害も、そして多くの災厄も、時と共にその「熱さ」は忘れ去られてしまうかの様相です。しかし、第二次世界大戦での敗北がもたらした教訓や、先の東日本大震災と福島第一原発事故という現実が今なお放ちつづける「熱さ」を、おいそれと忘れるわけにはいきません。(略、先人たちの出版文化への思い、反省、決意を噛みしめ、先人に負けない気概をもって事業に挑む)
 鉄筆の社是は、「魂に背く出版はしない」です。私にとって第二の故郷でもある福島の地で起きた原発事故という大災厄が、私を先人たちの魂に近づけたのは間違いありません。この社是は、たとえ肉体や心が消滅しても、残る魂に背くような出版は決してしないぞという覚悟から掲げました。ですから、「鉄筆文庫」の活動は、今100万部売れる本作りではなく、100年後も読まれる本の出版を目指します。前途洋洋とは言いがたい航海のスタートではありますが、読者の皆さんには、どうか末永くお付き合いくださいますよう、お願い申し上げます。

(平野)

9.26「町本会」


 F店長が、入社から店長就任、在職中のこと、「閉店」までを、静かに、時に笑いを盛り込みながら語りました。立場上、まだ言いにくいこと・言えないこともあったでしょう。でもね、改めて「あんたが店長で良かった!」と平野は思いました。
 ゴローちゃんは、協力者の立場・顧客の視点から【海】のことを語ってくれました。
 お疲れ様でした。

 平野はお江戸のGFたちに会えて、ハッピー&ラブリーナイト・イン・エビスでありました。
「町本会」の皆さん、amuの皆さん、参加の皆さん、ありがとうございます。またどこかでお会いできたらうれしいです。

「ほんまにWEB」の[シロヤギさんクロヤギさん往復書簡]更新。
http://www.honmani.net/index.html
 クロヤギさんの話は、ヤギと毛むくじゃらのこと……
 

2014年9月29日月曜日

町本会「海文堂書店100年」


 9.26(金)1930~ 恵比寿amuにて

14回町本会「海文堂書店100年 あらためて元町の本屋さんから考える」

福岡宏泰、石阪吾郎、島田潤一郎





 
 
ご来場いただいた皆々様、ありがとうございます。
お世話くださった関係者の皆様、ありがとうございます。
 
 『ほんまに』第16号 くとうてん 476円+税

特集 続・神戸の古本力 続き

古書店を開店するまで 「うみねこ」暗中模索 野村恒彦

 「古書うみねこ堂書林」開業記。大学時代から古書店主はあこがれの職業の一つ。定年が迫ってきて、

家族の説得よりも先に、あと何年残りの人生があるのかわからないが、本当に好きなことをしたいと思ったのが本音である。では自分に何が出来るかと考えた時、その答えは用意に得られたことはわかっていただけるだろう。

 店名の由来。
「のむらつねひこ」を一字飛ばしに読むと「のらねこ」。
【海】の強力な支援者で、名前にまで「うみ」を入れてくれた。
「堂」は店舗が元「ひさご食堂」だったから。
「書林」はお世話になった古書店「皓露書林」から。
 多くの思いが詰まっている。

神戸文芸関係の古本探検抄 高橋輝次

 灘区「六甲文庫」でふと見つけた昭和30年頃の神戸随想冊子。四天王寺で拾い上げた昭和2030年代の新聞記者の自伝小説。ロードス書房で小躍りした同じ人の少年時代小説と随想。
 それぞれの本との出会い。本が引き寄せるのか、高橋が引っぱるのか。

兵庫県古書店MAP  協力:イマヨシ書店、トンカ書店

イシサカゴロウによる手描き地図。休業中の店もあるので、お出かけの時はHPなどでご確認を。

兵庫県古書籍商業協同組合 TEL 078-341-1569

(平野)

2014年9月26日金曜日

ほんまに第16号 続き


 『ほんまに』第16号 くとうてん 476円+税

特集 続・神戸の古本力 続き

古書店主に聞く ベテラン編 やまだ書店 山田さん

 20代前半、梅田で古本屋修業。恐かったのは、本の買い取り。

売るのは簡単、でも何を持ってこられても値段をつけなあかんのですよ。売ると同時に買うのも仕事やからね。ヶ月以内に出た本やったら定価の何%とか、僕らそんな世界と違う。エロ本から和本まで持ち込まれる可能性があるんですよ。

 プロとしての自負がある。若手の活躍にも注目している。それでも……

周りから笑われるかもしれんけど、初心に返って売上げが少なかってもええやんか、自分の売りたい本を売っていきたいね。

 古本屋を目指す人は話をしに来なさい、と言うてはります。
 
恐い人ばっかり違うよ(笑)。

古書組合市場レポート セ~ラ編集長
どの書店さんも本を見る目は真剣。みなさん、当たり前なのかもしれませんが、なにか資料を手にしているわけでもなく、頭のなかの知識や情報を駆使して目を利かせ、これだと思う本の束に値段をつけているのだと思われます。そしてその目利き職人たちの手によって流通していくのを待つ本の山。(略)

(続く)
(平野)
 いよいよ本日「第14回 町本会」。恵比寿amuにて、1930より。福岡宏泰・石阪吾郎出演
 平野は本売りで同行いたします。ついでにお江戸見物しますので、しばらくブログお休みでっす。

2014年9月25日木曜日

マッチの気持ち


■ 安野光雅 『マッチの気持ち』 文藝春秋 1600円+税

 

マッチはどこへ行ったのかしらん
あなたに出した手紙はみんなもどってきた
あんなに 好きだとゆうてあるのに
さよならもいわずに
行くなんかあんまりだ
……

 マッチの話だけで紡ぐ詩画集。マッチだけではなく、なくなっていくモノへの郷愁。

……
時代が かわったんじゃから
ほいじゃけど
たのしいことがあったことを
みんな 忘れません

 

 『ほんまに』第16号 くとうてん 476円+税

特集 続・神戸の古本力 続き

古書店主に聞く ミドルエイジ編 清泉堂書店 倉地さん

(先輩の教え)
店に来てもらうためにその人がほしいものをいかに買いやすい値段で提供するか、そうすることでお客さんがまた店に来てくれる、その繰り返しが大事なんだと。高い値段で売れてしまえばいいというのではなく、常に姿勢として買いやすい値段をつけておけばお客さんがここは良心的な店だということを理解してくれる。

(続く)

(平野)

2014年9月24日水曜日

ほんまに 第16号


 『ほんまに』第16号 くとうてん発行 476円+税

特集:続・神戸の古本力  9月末販売開始

 表紙の絵はいつものようにゴローちゃん、いつものように本を読む美女。どこでこの人に会える?
 前に紹介したように、特集を「続」としたのは、067月の海文堂イベント「神戸の古本力」を踏まえて。トーク内容は資料を加えて同年11月に単行本化(みずのわ出版、現在品切)。
 新鋭、中堅、古参(めちゃくちゃ古いみたいですので、ベテランと言い換えます)に神戸の現在の古本状況をお聞きしました。
「巻頭言」平野が役不足と言うか、役立たずのおじゃま虫です。

 

インディーズ古書店座談会

エメラルドブックス 小西池さん
ワールドエンズ・ガーデン 小沢さん
ハニカムブックス 佐伯さん
トンカ書店 頓花さん

 若手ホープたちの本と商売への思いを。

「私今日モンキーレンチ買い取りしました(笑)。本じゃなかった」

「部活ノリが好きで、一人でやっても仕方ないものも皆さん楽しんでくれるので、人のつながりっていいなあと思ってやっています」

「続けること。お客さんが望んでいるイベントとか、お店づくりですね」

「亡くなられた方の蔵書処分では必ずお線香はあげて、手を合わせています。せめてもの古本屋の誠意かなと思って」

(内容紹介続く)

「ほんまにWEBhttp://www.honmani.net/index.html

 取り扱いいただけるお店はこれからですが、15号を置いてくださったところはたぶん大丈夫だろうなあ、と希望いっぱい予想、ダメだったらごめんなさい。古本屋さんが扱ってくれることを期待しています。

(平野)
9.26(金)東京恵比寿amu「第14回町本会」にて先行販売。F店長とゴローちゃんが出演してトーク会です。私は『ほんまに』販売係です。

2014年9月23日火曜日


 城山三郎 『鼠 鈴木商店焼打ち事件』 文春文庫 19753月刊(手持ちは89122刷) 解説 小松伸六 『文學界』連載(196466


 神戸の鈴木商店は1874年(明治7)鈴木岩治郎が外国産砂糖輸入商として開業。後に大番頭と言われる金子直吉の入社は86年。日清戦争後、台湾の樟脳事業に乗り出し、薄荷、製糖など多角化、さらに鉄鋼、造船、重化学など製造業を立ち上げる。第一次世界大戦で連合国相手にビジネスを展開し、1917年(大正6)には三井・三菱を抜いて日本一の商社になった。「鈴木」源流の大企業は現在も数多くある。

 大戦終了後、世界は不況。188月、米買い占めの噂から暴徒によって「鈴木」は焼打ちされる。関東大震災もあった。27年(昭和2)破綻。
 米騒動による焼打ちについて、通説では、大新聞による執拗な「鈴木」攻撃、既成財閥の策謀、政治家との癒着による台湾利権、さらに未開放部落民を暴徒に仕立てた、などの話があった。

 本書では、「わたし」が鈴木商店ゆかりの人物に聞き書き。
 倒産後も「鈴木」出身者たちによる会社がOBの遺児の面倒をみていたとか、金子や「お家さん」の人柄とか、追慕の会が続いているとか……
 事件・人物について多方面から検証する。これまでの鈴木悪者説を鵜呑みにせず調べて、前近代的経営と近代化推進派、中間派、多くの人材など金子を中心にした鈴木商店史を掘り起こす。

金子直吉像。

 肩幅の広い羅漢像のような体躯。大きな耳と、前頭の高いビリケン頭。鉄縁の眼鏡。乱視で近視、そして斜視。鼻が悪いので、いつもコカインの注入器を持っていて、鼻にふっかけている。
 夏冬通して、いつも同じ鼠黒の服。綻びても気にしない。ズボンはだぶだぶの袋のようで、折目などついていたことがない。しかも、ポケットはいつもふくれ上がっていた。冬には、そのズボンの裏に真綿をとりつけるので、いっそう不恰好になる。貧血気味の彼は、何よりも健康、そのための保温だけを考えていた。夏も、腹から懐炉を離さない。
 晩年には頭寒のためとあって、頭頂に氷嚢をのせ、くしゃくしゃの中折帽をいつもかぶって、落ちないようにした。そして、靴は、踵の低いもの。
 風采に関する限り、よいところなしである。

 服は季節に応じて生地を同色同柄で取り替えていた。

ヨーロッパで戦争が起きた時、金子は会計主任に命じた。

「今日以後は、鈴木の信用と財産とを充分に利用して出来るだけの金を拵え、極度の融通を計って貰い度い。又如何に行詰るとも、自分の戦闘力をにぶらせる様なことは言って呉れるな。盲目滅法だ、驀地(まっしぐら)前進じゃ。いよいよいかぬときにはにだけソッ言え。鈴木成すは、この一挙にある」(金子柳田両翁頌徳会『金子直吉伝』)
 国内の商売ではなく、海外から金(きん)をとることを考えていた。

 倒産して、金子は銀行に家財を取られ、定宿のホテルも出た。その時の句。

 落人の身を(すぼ)(ゆく)時雨哉
 貧乏に追いつかれけり年の暮れ

白鼠の俳号を持つ。

 築地の小松屋別館という小さな宿屋に引き移った。そこで直吉は、はじめて和服で炬燵にはいった。それまでは寝る寸前まで詰襟服を着ての生活で、絶えて着物に手を通したことはなかった。天下国家を望みながら、彼は本質に於ては、生涯、勤労者であった。鼠のように走り廻らねば生きて居られぬ人間であった。その勤勉さが鈴木商店を興し、そして、倒した――。

「お家再興」を目指したが442月、79歳で亡くなった。

「鈴木商店」についてはこちらを。
鈴木商店記念館 http://www.suzukishoten-museum.com/about/

(平野)

2014年9月22日月曜日

他人の鍵


 陳舜臣 『他人の鍵』 文春文庫 1977年(昭和529月刊  69年に『別冊文藝春秋』に掲載。 解説 野口武彦  カバー写真 秋山庄太郎

 ヒロイン清原織雅(おりが)22歳。昭和21年秋、北野町の豪邸。彼女は実業家・小谷の愛人だった。金と色の男。彼を殺すつもりで合鍵を使って邸にしのびこむ。彼女はアメリカ人将校にプロポーズされていた。ポケットにピストル、寝室に入ると……小谷は既に血を流して死んでいた。
 織雅の父は日本人、母は白系ロシア人、ハルピンで結婚。日本に帰り、神戸山手の外人長屋で暮らした。父が亡くなると、母は東京の親戚を頼り、ロシア語を教えながら娘を女学校に通わせた。戦争中、織雅が卒業して、母娘は神戸の長屋に戻った。長屋には幼い頃一緒だった人たちが住んでいた。中国人、ポルトガル人、トルコ人、管理人の日本人母子(あき子、隆夫)もいた。近所には日本人の幼なじみもいた。

 神戸の北野町、山本通一帯は、むかしから外人の住宅が多い。ふつうのまちで、人口構成が日本人より外国人のほうが多いのは、日本じゅうでもそう多くないだろう。
 ひろい緑の芝生の庭、瀟洒な洋館が、坂道のところでは積み重ねたようにみえる。収入が多く、生活程度も高い外人たちがそんな場所に住んでいる。だが、すべての外人がそうなのではない。
 下宿屋のつもりで建てられたこの外人長屋に住むのは、いわば一般外人のレベルから、はみ出したような人たちなのだ。

 北野の異人館というと、お金持ちのイメージを持つが、この話に登場するのはそういう人たちではない。織雅は混血娘だし、他の子の親たちも、中国人はコック、ポルトガル人のピアノ教師は世界放浪者、トルコ人はソ連からの亡命者。

 外人長屋の子供たちの日本語は、神戸弁の部類にはいるが、完全なそれではない。日本の学校で勉強したのは、隆夫のほかは織雅だけである。だが、彼女も、家庭ではロシア語を常用した時期があった。
 ほかの子供たちは、外人学校で英語、トルコ語、中国語などを習い、週に何時間か『日本語』の授業もあって、かんたんな文章なら読める。しかし、新聞ていどになると、もう歯が立たない。

 事件の翌々日、幼なじみたちが復員してきた隆夫の歓迎パーティー、お好み焼き屋に集まる。織雅と小谷の関係、将校との交際を皆うすうす知っている。幸せになってほしいと思う。パーティーの最中、長屋が火事。あき子の焼死体が発見される。

 日本人社会で生きる外国人たち。この国に住んでいてもこの国に属していないという不安。しかし、民族は違っても、戦争の混乱のなかでも、彼らは共通の思い出を持っていた。

(平野)
 陳さんのエッセイで、子ども時代の話。
 陳さん含めて皆国籍が違う。いっしょにお好み焼き屋に行く。宗教上、豚肉を食べてはいけない子もいる。
「おれブタあかんねんでー、ブタの油もあかんねんでー」
 店のおばちゃんは平気な顔して焼いている。

2014年9月21日日曜日

悲恋十年


 田宮虎彦 『悲恋十年』 弘文堂フロンティア・ブックス 1964年(昭和3912月刊

 表題作他全5篇。

「悲恋十年」は63NHK,64TBSと続けてドラマ化。本書はTBS版に合わせて出版。本としては60年に角川文庫で出ている。

「悲恋十年」

 題名どおりの恋愛物。10年前、日本で結婚を考えた男女が別離。敗戦後のインドネシアの島で再会。男は従軍画家。女は慰問に来た歌手で戦争悪化のため帰れず、日本人ホテルで働いていた。収容所から帰国の船中、女は病の男の看病をする。

 所収作品のうち「小さな赤い花」は同名の長篇の一部。田宮の神戸少年時代を題材にした悲しくて辛い物語。
 母親を亡くした少年は父親と後妻(愛人?)に可愛がられず(折檻、虐待)、飯炊きの老婆の部屋で過ごす。老婆には足の不自由な孫娘がいる。ふたりの子どもは母恋し、父恋しの境遇。最初少年は少女をいじめるが、次第に心寄せ合う。ふたりは教会裏の空家になっている洋館で遊ぶ。少女は疲れて寝てしまう。少年は赤いひなげしの花で飾ってあげる。しかし、その日老婆の部屋に戻ると、少女の母親が引き取りに来ていた。

(平野)
弘文堂は法律書や精神医学書のイメージが強いが、かつてはカッパブックス、カッパノベルスに対抗するシリーズを出版していた。海外文学やノンフィクションのシリーズもあった。

2014年9月20日土曜日

金子光晴 文庫


 金子光晴 『女たちへのエレジー』 講談社文芸文庫 19988月刊

『詩集 女たちへのエレジー』(49年創元社)、『愛情69』(68年筑摩書房)を文庫化。

目次

女たちへのエレジー

南方詩集
畫廊と書架
こころのうた

愛情69

解説 中沢けい  年譜 中島可一郎  著書目録 原満三寿

「女たちへのエレジー」は昭和初めの東南アジア放浪をもとに書いた作品。「愛情69」は男女の愛の詩69篇。

 

 金子光晴 『人よ、(ゆるや)かなれ 中公文庫 20038月刊
 
カバーの絵も著者

 「西日本新聞」に連載した随筆「日々の顔」(73.35)、74年青娥書房単行本。文庫化で同年代のものを追加。

「随筆のこと」

 元来、随筆というものは、達人のやることで、視界の狭い僕などに、ろくなものが書けるわけはない。さりげない短文のなかに、書く人の人柄のよさがあらわれ、処世の参考になるような生きかたの秘密を教えられたりする。そういう随筆をよむと、こころがほんのりとしてくるものだが、ゴツゴツ生きてきた僕には、人をほんのりさせるような要素は、あんまりないようである。(略、昔から詩人は随筆を書いた、生活のため。満足に考えるひまがないくらい次々現実に追い立てられる。随筆だけは閑日月がいいものをつくるようだ)
 僕はまだ、年齢的にはたしかに隠居さん格なのだが、僕のまわりは修羅場がつづいている。仄かな随筆がつくれるようになるには、まだしばらく、人生修業が必要かもしれないが、そのあいだに、地球が滅亡するかもしれない。(略)
 すべて楽観的に考えて、せせこましくなく生きることだ。じぶんも他人もいじめないことだ。
 九十歳まで生きることができたらありがたい。そしたら、淡々たる、風味のある随筆を、また書かせていただく。

 単行本刊行の翌年、80歳で亡くなった。
(平野)善行堂で購入。

2014年9月19日金曜日

夜學生


 『杉山平一詩集 夜學生』 竹林館 200712月刊 800円+税 A6判

 杉山の第一詩集(1943年、第一芸文社)、1990年銀河書房より復刻。

 
「夜學生」

夜陰ふかい校舎にひびく

師の居ない教室のさんざめき

ああ 元気な夜学の少年たちよ

昼間の働きにどんなにか疲れたろうに

ひたすらに勉学にすすむ

その夜更のラッシュアワーのなんと力強いことだ

きみ達より何倍も楽な仕事をしていながら

夜になると酒をくらってほっつき歩く

この僕のごときものを嘲笑え

小さな肩を並べて帰る夜道はこんなに暗いのに

その声音のなんと明るいことだろう

ああ僕は信ずる

きみ達の希望こそかなえらるべきだ

覚えたばかりにの英語(リイ)読本(ダア)

声たからかに暗誦せよ

スプリング ハズ カム

ウインタア イズ オオバア

 1935年(昭和10)から「四季」に応募したものをまとめた。

……三好達治氏は当時選者として、私ら未知の青年の作品に対し誌上「燈下言」に於て叱正を賜り、自分はその意味を二年三年のちに感ずるようなにぶいのろいすすみ方で詩を書き、いつまでも戸惑い、そしてそれはついに、詩を書くことによって自らを鍛えるということにはなったように思います。自分のものは技巧に充ちているとみられましょうが、作品はどうでもよくやはり人間の地を鍛えねば、というそのような感懐があるのです。……

 戦時中ゆえ、掲載しなかった詩もある。
 友人から、お前の詩は電車や汽車ばかりだ、季節や草花を歌えない、と責められ自らも深く恥じたそう。だが、
「自分は鉄道が好きだ 若しも詩集を出すとしたら題を鉄道にしようとさえ思う ……
 という詩も。
(平野)
善行堂で購入。

『ほんまに』第16号の案内をまたヨソサマ(同じ人、空犬通信)がしてくださっている。ありがとうございます。
『ほんまに』第16号 くとうてん編集・発行 476円+税
特集 「続 神戸の古本力」 今月末販売開始
「続」としたのは、2006年7月海文堂でのトークイベント「神戸の古本力」(トーク内容に愛好家アンケート、資料を加えて、みずのわ出版から単行本化)を踏まえたからです。
 新鋭から中堅、ベテランまで、古本屋さんに今の「神戸の古本力」を語っていただきました。06トークの主役、林哲夫さん、高橋輝次さんに寄稿いただきました。もうひとりのアカヘルは残念ながら“アウト”でした。
 詳細はおいおいお知らせします。
 前号を販売いただいたお店では続いて置いていただける予定です。

2014年9月18日木曜日

BOOK5 No.13


 『BOOK5』 No.13 
トマソン社 600円+税

特集 本屋道具図鑑

内装と什器 古本屋の棚づくり

一本のネジを笑うものは、一本のネジに泣く。

神田の自転車と風呂敷

新刊書店の道具

道具アンケート
 
南陀楼綾繁「どうせ本はみつからない」新連載
 
……以前から、持っているはずの本が見つからないことはよくあったが、いまはもう、どうせ本は見つからないものだと諦めている。たまたま手の届くところで発見できればラッキーだと喜び、なければ捜索に時間を費やすのは諦めて、さっさと図書館や古本屋に向かう。その方が精神衛生上もマシなのだ。じゃあ、なんのためにそんなに本を持っているのかと問われたら、返答に窮するのだが。……

 

 現場の皆さんの創意工夫日常業務改善姿勢がうかがえる特集。
 働きもん! アイデアマン!

 私、現役時代、軍手とチリ払いのハタキをケツポケットに差していました。仕事をしているフリになります。
 同僚Tのポケットには何でも入っていました。各種ペン、消しゴム、ノリ、テープ、カッター、ハサミ、電卓、手帖、メモ、バンドエイド、はんこ……、しょっちゅうそこらに何かを置き忘れていました。

(平野)