2016年1月19日火曜日

偏愛ルネサンス美術論


 ヤマザキマリ 『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』 
集英社新書 760円+税

 1967年東京生まれの漫画家。古代ローマの浴場設計技師が現代日本の風呂にタイムスリップする『テルマエ・ロマエ』が大ヒットして、映画にもなった。前作はギャグ漫画だったが、歴史人物評伝『プリニウス』を『新潮45』に連載中。
 本書は美術評論。ヤマザキはイタリア国立フィレンツェ・アカデミア美術学院で美術史と油絵を学んだ。テーマは「ルネサンス」、キーワードは「変人」。

《いまはもう、自分で絵筆をとり、カンヴァスに向かうことはなくなりました。でも私の中には、「売れない画家」だった時代の、美術に対する純粋な愛情と尊敬の気持ちが残っています。売れない詩人だったフィレンツェ時代の恋人と、泥水を飲むような最低限ギリギリの生活をしていたとき、私に生きる力を与え続けてくれたのは、ヨーロッパの各地で目にした美術作品、とりわけルネサンス期の絵画だったからです。》

ルネサンスといえば、三大巨匠のラファエロ、ミケランジェロ、ダ・ヴィンチは思い浮かぶ。ヤマザキはルネサンス絵画の幕開けを飾る人物として、フィリッポ・リッピという修道士を挙げる。

《聖母マリア(マドンナ)の絵を描かせると、彼はとてつもなく上手でした。ただしそのモデルは自分の愛する女性で、その人以外を描くと、言っては悪いけれど、まるで下手くそ。そう、彼は「自分の愛する人」しか綺麗に描けないという、当時の画家としては例外的な存在――つまり「変人」だったのです。》

『聖母子像と二天使』が代表作、宗教画の基本からはずれている。「キリストを意味する記号」とか、世俗的な女性を描かないという「お約束」より、モデルをよく観察して描いた絵。モデルは自分の妻と子。

《自分の愛する者たちをモデルにした「聖母子像」によって、フィリッポ・リッピは画家としての名を成したのです。(中略)
 恋する「お坊さん」が描いた『聖母子と二天使』には、本来の宗教心とはかけはなれた猥雑な気持ちが混ざっています。けれども、そうした猥雑さこそが、ルネサンスという「人間復興」の気運を駆り立てていく原動力でした。》

 では、三大巨匠は?
 ミケランジェロは「宗教的な頑固者」で「完璧主義者の変人」。ダ・ヴィンチは「人間嫌い」で「マルチな才能を持った変人」。ラファエロは先輩たちよりも社会性があり女性にモテ、膨大な仕事をなしたが、若死に。
《通常の人間にはかなわないフレキシブルさを持った「変人」の一人ではないかと思います。》
 17歳で単身留学したヤマザキ(いろいろ苦労があった)がユニークな視点でルネサンス「変人」たちの「人間復興」運動を解説する。
(平野)
『ほんまに』17号販売店追加
【神戸市中央区】 ギャラリー島田  078-262-8058
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