2016年7月3日日曜日

戦災記念日&記念品


 島京子「記念品」 
『海さち山さち』(編集工房ノア、1995年)所収

 島京子は毎年317日の日記に「戦災記念日」と書く。空襲の「記念品」も残している。

《昭和二十年三月十七日、未明から始まったアメリカ軍の大型爆撃機、ボーイングB29による神戸市街地への攻撃は、他都市と同じく、焼夷弾による焼きつくし作戦で、海側からくり返しやってきては、焼夷弾をバラ撒いていった。
 防空頭巾をかぶり、救急袋とリュックサックを身につけた私は、家の玄関口の軒下に立っていた。
 南東の空が、炎を映して赤かった。滅びの予感をはらんで、地鳴りのような、身体の芯にこたえる物音が伝わってくる。
 爆音が近くなり、空を見上げていた私の目に、頭上からたくさんの花火状のきらめきが撒かれたのが見えた。
「落ちて来るっー」
 叫んで、家に走りこむと同時に、辺り一面にすさまじい破壊音がした。》

 焼夷弾2発=「敵からとどけられたまがまがしいもの」が家の屋根を貫いて落ちてきた。訓練どおり砂袋を投げ、なんとか消えた。隣家から火が燃え移ってきて、家をあきらめた。

《「家が焼けてしまうのだ」と涙が出た。「たくさんの日記帳が」「私の心が焼けてしまう」そんな一瞬の感傷があった。》

 京子はのろのろ歩いている大人たちの「腑抜けのような顔つき」に驚く。
 小学校に避難、午後家に戻る。本は灰、焼け跡に残っているのは瓦礫。

《戦災記念品として、いまもあるお釜は、コンクリート敷きの裏庭に出した七輪の上にあった。
 木蓋は形を残して消し炭のようになっていたが、朝食のために用意していた麦入りごはんは、釜の中で、何のおかしげなところもなく、でき上がっていた。(後略)》

 島京子 1926年神戸市兵庫区生まれ、『VIKING』同人。65年「渇不飲盗泉水(かっすれどもとうせんのみずをのまず)」が芥川賞候補。現在神戸エルマール文学賞代表。

(平野)
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 久坂部さんもかつて『VIKING』同人。