2016年11月29日火曜日

神戸 わが街


 安水稔和 『神戸 わが街 ここがロドスだ ここで踊ろう』 神戸新聞総合出版センター 2300円+税

 安水は1931年神戸市生まれ、詩人。本書は安水の神戸原風景と現風景を語る詩とエッセイをまとめる。
 安水は須磨の在原行平伝説(京を追われた貴族と姉妹のロマンス)が町名に残る町に生まれた。海パン一丁で海に走った。阪神大水害や大空襲の悲惨を体験した。疎開から戻り、長田に住み、六甲で学び、青谷で教壇に立ち、詩作を続けてきた。
 阪神淡路大震災直後、炎に包まれた長田のまちを見つめ、
「生きて愛するわたしたちのまち。/生きて愛するわたしたち/ここを離れず。」
 と、うたった。目の前で燃えるまちの姿を原風景として抱えよう、と。
 生粋の神戸っ子だが、神戸自慢を展開するわけではない。多様な顔を持つこの街を愛している、ここをロドス(理想郷)と思い、ここで踊ってきた(詩作)。同時に、ここから何度も旅に出て、その旅を詩にした。古今の詩人や漂流者の足跡を訪ね、その評伝をラジオドラマにした。「ここ」が「そこ」で、「そこ」が「ここ」。この人生は「仮の宿」だと思う。その「仮の宿」を詩に書き、エッセイに綴る。
 表紙の絵は石阪春生。

(平野)
 わたしのまち、原風景を思い起こしてみる。路地の奥でチャンバラ一人遊び、みなと祭の懐古行列、元町・三宮本屋めぐり……。現風景は本屋のない寂しい元町通か。

〈海文堂100年誌刊行委員会〉が『海の本屋のはなし 海文堂書店の記憶と記録』(苦楽堂)番外編を企画中。「小林店長アーカイブ(仮)」公開に向けて始動。詳細はおいおいお知らせする。

2016年11月27日日曜日

花森安治装釘集成

 『花森安治装釘集成』 
編者 唐澤平吉 南陀楼綾繁 林哲夫  みずのわ出版 
 8000円+税


 花森(19111978年)は暮しの手帖社初代編集長、同社の出版物以外にも多くの装釘を手がけた。
 唐澤は1948年愛知県生まれ。72年暮しの手帖社入社、花森のもとで編集。8年在職後、病気のため退職。信州伊那谷在住。2010年、花森生誕100年を前にブログ「花森安治の装釘世界」を開設した。著書に『花森安治の編集室』(1997年晶文社刊、2016年改題して『花森安治編集室「暮しの手帖」ですごした日々』文春文庫)。花森装釘本蒐集はこの十数年ほど。花森の家族、南陀楼ら古書蒐集者、暮しの手帖社同僚の協力があった。
 花森は神戸市葺合区熊内町生まれ、雲中小学校から神戸三中。本書出版元が神戸に縁ある〈みずのわ出版〉でうれしい。本書は6年がかりの作業。B5判並製、282ページ、カラー図版1000点。編者の皆さんはじめ関係者に敬意を表したい。


目次
花森安治装釘集成おぼえがき  唐澤平吉
人の縁から生まれた装釘の仕事  南陀楼綾繁
自著・自装本
単行本
雑誌
暮しの手帖研究室写真  河津一哉
掲載書目
蒐集のきっかけは無知から  唐澤平吉
花森のことば
装釘 林哲夫

「装釘と著作権」〈花森のことば〉より
《装釘の仕事をはじめてまだいくらにもならないが、思っていた以上に、この装釘という仕事が、ひどい取扱いをうけているのに驚いている。(略、出版者や編集者も装釘の仕事をわかっていない、書体や構図に註文をつけ描き直しさせ期限を急ぐがせる)
 ひらき直っていえば、一冊の本というものは、著者と装釘者と印刷者の共同作品である。それなのに、装釘だけが、何か出版者の下請け仕事みたいに考えられがちなのは、合点がゆかない。(略)》
 装釘にも著作権を認めよと主張した。
(平野)
 林哲夫さんの完成記念トーク開催。1210日(土)ギャラリー島田。この日から林さんの個展もはじまる。
http://sumus2013.exblog.jp/

 みずのわ社主は本年末をもって出版社を廃業すると決めていたが、撤回した。同社の〈刊行案内〉(2016.11)にその旨告知している
……過日、出版界の良心とされてきた某版元と業務上の交渉をした折、あまりの堕落ぶりと志の低さに怒りを通り越して呆れ果て、こんな奴らに任せてはおけぬと思い直しました。(略)》
 
「朝日新聞」1127日、鷲田清一〈折々のことば 590〉は北田博充『これからの本屋』(書肆汽水域)から。


2016年11月23日水曜日

秋なれば


もう秋とは言えない11月終盤。読書の秋が短い
「朝日新聞」21日(月)の朝日歌壇・俳壇には本を題材にした歌がちらほら。

《秋なれば本の栞にこと欠かず橅、柿、桜、檀、鎌柄》 長野県千葉さん
 ぶな、かき、さくら、まゆみ、かまつか。

《古書店の本と本との隙間から出入りをする一匹の猫》 長崎市牧野さん
 神戸灘区の古本屋さんにも立派な看板猫がいる。

《小鳥来る老女四人の読書会》 幸手市藤井さん
 ピーチクパーチク? 失礼。幸手(さって)市。地理に疎く、はじめて目にした地名。

 他にも、図書室、辞典、ビッグイシューなど。
 私もマネして。

 落ち葉踏み本屋探してまち歩き  よーまる
 本ではなくて本屋を探すおっちゃん。

ヨソサマのイベント
1126日(土)~127日(水) ギャラリー島田にて
 石井一男展  

 


 須飼秀和展

 

 この時期恒例になった二人の展覧会開催。

*ご注意 〈石井一男展〉112627日は10時より入場整理券を配布。詳しくはこちらをご覧ください。


 (平野)

2016年11月19日土曜日

ほんまに&横溝正史


 ほんまに&横溝正史
「神戸新聞」1113日読書欄で『ほんまに』第18を紹介いただいた。『小説 君の名は。』の隣、〈出版めも〉「作家たちの空襲」
……3ページにわたる神戸の戦災焼失区域図に、作家名や当時の年齢を落とし込み、「その時」を誌上に再現。作品の抜粋や解説も付く。野坂については2000年に神戸で行った講演も再録。遠い記憶をたどる言葉の克明さが戦争の残酷さを物語っている。/興味深いのは「空襲下の詩人と少年工」と題された季村敏夫の一文。詩人杉山平一と高校教師岡本忍の奇縁を伝える。(後略)》
 ありがとうございます。
 
『KOBE C 情報』(同編集室、Cは「CULTURE」)12月号が神戸文学館開館10周年記念企画展〈横溝正史~金田一耕助の神戸を探偵する〉を紹介。公共施設や駅で配布。
 

(平野)
 

2016年11月15日火曜日

谷崎万華鏡


 『谷崎万華鏡 谷崎潤一郎マンガアンソロジー』 
中央公論新社 1000円+税

 中央公論新社は昨年から谷崎潤一郎没後50年生誕130年を記念のイベントや出版を行っている。同社も創業130周年。
 本書は同社WEBサイトで11人が発表した谷崎作品をまとめる。


 谷崎(18861965)は日本近代文学を代表する文豪。全集(同社)の宣伝文句には「流麗な文章が生み出す、豪奢にして繊細な作品世界――」とある。幻想的で耽美な文学世界
 でもね、実はドのつく「変態! 助平!」。SM、フェチ、人形愛に、ほにゃらら……。私生活も波瀾万丈。
 

谷崎ガールズ  久世番
痴人の愛  今日マチ子
陰翳礼讃  高野文子
瘋癲老人日記  しりあがり寿
台所太平記  山口晃
 他、古谷兎丸、西村ツチカ、近藤聡乃、山田参助、中村明日美子、榎本俊二。
 原作も読みたい。

(平野)
言うて詮無いことながら、上村一夫で。

2016年11月9日水曜日

夢の本屋ガイド


 綾女欣伸 花田菜々子 北田博充編集 

『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』 朝日出版社 1600円+税

  今年5月刊、北田博充『これからの本屋』(書肆汽水域)中で架空の本屋=「夢の本屋」が語られた。これに刺激を受けた書店員、古書店主、出版営業マン、取次人、印刷業者たちがそれぞれの「夢の本屋」を案内する。全22店。

「死者のための選書」をする本屋、刑務所に本を届ける本屋、本屋列車、本を売るのではなく「読書する人」に取材して「読む楽しさ」を伝える本屋、文士たちの家屋が再現されている「村」の古本屋、今日という日にゆかりのある作家の本をリヤカーで売って歩く本屋、完全予約制の本屋、廃業後復活した老舗、地震後の熊本で開業した本屋……。電子書籍の未来もある(私はチンプンカンプン)。

 自由な想像からアイデアが生まれ、イベントやフェアのヒントになるかもしれない。「夢」を実現する人も出てくるでしょう。さらに新しい「夢」がふくらむでしょう。書き手の皆さんが楽しんで書いている。
 でもね、編集者たちが言うには、現実に存在する本屋の中にも、「まだどこにも紹介されていない」面白い本屋が「まだまだ」たくさん存在しているはず。
 今ある本屋をめぐりましょう。

(平野)
〈ほんまにWEB〉連載3本更新。

2016年11月6日日曜日

古本屋ツアー 京阪神


 小山力也 『古本屋ツアー・イン・京阪神』 本の雑誌社 1800円+税

 小山は1967年神奈川県生まれ。全国の古本屋を訪ね歩く。2008年からブログ「古本屋ツアー・イン・ジャパン」を開設。


著書、『古本屋ツアー・イン・ジャパン』『(同)それから』(原書房)、『古本屋ツアー・イン・首都圏沿線』『(同)神保町』(本の雑誌社)。

《京都市は山に囲まれた盆地に、千二百年の歴史を誇る古都をベースにした雅な観光地として、常に賑わっている。大阪市は広大な大阪平野に、繁華な昭和的街並を何処までも敷き詰め、その中で人間という生物がエネルギッシュに活動を続けている。神戸市は北から緑豊かな六甲山地が間近に迫る、風光明媚な港町として知られ、古めかしい異国情緒と先鋭的な街並を、美しくミルフィーユのように狭く細長い土地に融合させている。》

 三都市に加え、滋賀、奈良、阪神間を訪問。京都善行堂主人との対談、同行ツアーもある。
 神戸は、神戸学生青年センター古本市(毎年3月~5月、寄付された古本を販売して奨学金に)、口笛文庫、あかつき書房、やまだ書店、トンカ書店、うみねこ堂書林、1003、ワールドエンズ・ガーデンなど29店舗。
 取材期間(小山は「彷徨」と書く)は6ヵ月、200店舗以上を巡った。その間、名物店主の死去があり、取材店の移転あり。

《それにしても、京阪神は面白い。東京の神保町や中央線沿線は特殊な事例としても、それぞれの都市が、豊穣な古本屋シティであることを、充分に思い知らされた。またそれぞれを電車でつなげば、さらにその豊穣さは、深く薫り高くなるのが、大変に魅力的である。》

 一店あたりの取材時間は限られるだろうが、店の特徴だけではなく、店主の人柄も伝える。
「全力のユーモラスな接客」とか、「ハンチングを被った浅利陽介風」とか、「大人になってメガネをかけたちびまる子ちゃんのような」とか。
(平野)

ヨソサマのイベント
 ザックバランな古本のみの市  
トンカ書店  11.1728(火・水定休日)
 7店舗参加 古本+雑貨や珍品


2016年11月3日木曜日

画集 神保町


 得地直美 『神保町』 夏葉社 1700円+税

 著者は1981年、富山県生まれ、イラストレーター。著書に『本屋図鑑』(共著、夏葉社)。

〈本のある町を歩いて、歩いて、歩いて、描いた、1冊のスケッチブックのような本。散歩するように、思い出すように、読む本。〉

 得地が2010年から描いた神保町周辺のスケッチ。既にない風景もある。

 私は数えるほどしか足を運んでいない場所。いつかゆっくり歩いてみたい。

 
 


 今年は神保町フェスティバルに行けなかったが、本書が届いた。パンフレットも。

(平野)

2016年11月1日火曜日

ヒトハコ 創刊号


 『ヒトハコ』創刊号 
書肆ヒトハコ発行 ビレッジプレス発売 900円+税
特集 一箱古本市の楽しみ

「一箱古本市」は、2005年に南陀楼綾繁が呼びかけて東京・谷根千「不忍ブックストリートの一箱古本市」ではじまった。地域の店舗の軒先を借りて、一人一箱の古本を販売する一日だけの本屋さんごっこ。本好きたちによって全国各地に広がり、ブックイベントとして定着、地域おこしにも貢献している。参加をきっかけに古本屋さんになってしまった人もいる。

巻頭のことばより。
《一箱古本市のある町で、たくさんの本好きと出会って、彼らの活動や暮らしかたや考えを知りたいと思いました。そこには本の世界をもっと豊かにするヒントがあるかもしれない。5つの地域の編集者とともにつくる『ヒトハコ』は、「本と町と人」をつなぐ雑誌です。》

目次
【エッセイ】ホンバコ
【特集】一箱古本市の楽しみ
【対談】アートブックターミナル東北 わたしの本づくり
熊本地震と本
本屋が訊く本屋のこと
一箱古本市徹底レポート 天神さんで一箱古本市〈京都府長岡京市〉
本で地域に何ができるか
……
 
 南陀楼の編集後記から。
《誰に頼まれたわけでもないのですが、ずっと一箱古本市をテーマにした雑誌をつくらなければと思ってきました。「ココにこんなに面白い人たちがいるぞ!」というのを紹介したかったからであり、個人的には、これまでイベントのゲストとして招いてくれた各地の人たちへの恩返しでもありました。(中略)読書はきわめて個人的な体験です。その一方で、個人の本と共有される本。その両方を、この雑誌では扱っていきます。(後略)》

 本誌は「一箱古本市」だけを紹介しているのではない。個人的な営み・楽しみである「読書」を追求しながら、面白いと思った本を他の人にも知らせる、本を媒介にして人と人をつなぐ。紙の本の役割と可能性を広げていく。
 
 一箱古本市のはじめ方については「不忍ブックストリート」のサイトを見てください。開催するときは同実行委員会に連絡していただきたい。告知など協力してくれる。
http://sbs.yanesen.org/
 
 本誌関連 ヨソサマのイベント 
 11回 天神さんで一箱古本市
1119日(土) 京都府長岡京市 長岡天満宮参道
http://suirenndou.exblog.jp/i7/

 


 
(平野)