2016年12月11日日曜日

神戸探偵作家(1)


神戸の探偵作家たち(1

 この分野は古書うみねこ堂書林店主の専門なのだけど、ちょっと侵害して元町原稿に書いている。ここでは横溝正史以降の神戸ゆかりの探偵作家を紹介する。

  山本禾太郎(のぎたろう、かたろう。18891951年、本名種太郎)

山本は神戸生まれ、長田に住む。37歳のとき『新青年』(19266月号)懸賞小説で「窓」が当選。同時当選者に夢野久作がいた。
 山本は小学校卒業後、丁稚奉公、工員、裁判所書記などさまざまな職業に就いた。浪曲一座の事務員というのもある。
 司法関係の経験を活かして、訊問調書や鑑定書など記録文書を組み合わせて真犯人に迫る作風。32年、神戸新聞に「頸の索溝(くびのみぞ)」を連載(単行本『小笛事件』ぷろふいる社、1936年。『日本探偵小説全集11 名作集1』創元推理文庫所収)。実際に京都で起きた4人の女性変死事件を題材にした裁判小説。

大正末から昭和初期、文学青年のグループがたくさんあった。元町・三宮の喫茶店を根城にして文学を語り合い、懸賞小説当選を目指していた。山本は27年に『サンデー毎日』や『週刊朝日』の懸賞小説でも入選。年配者でもあるし、探偵小説グループではリーダー格と想像する。
 また、神戸には横溝正史の盟友・西田政治(にしだまさじ)がいて、『新青年』誌上で翻訳や評論を発表していた。西田・山本は江戸川乱歩の「探偵趣味の会」同人。この二人を中心にして若手作家たちが集まる。

 山本の筆名の読みについて、「のぎたろう」説と「かたろう」説がある。「のぎたろう」が定着している。
『山本禾太郎探偵小説選』(論創社)の解説者・横井司は「のぎたろう」説。本名の「種」から偏=(のぎへん)を残した。
 うみねこ堂店主は山本を知る人に「がたろう」と聞いている。また「かたろう」としている文献もあげている。辞書で「禾」の音読みは「カ」。
「か」「が」「のぎ」、さてどう読もう? 
(平野)
〈ほんまにWEB〉連載3本と〈元町商店街WEB〉更新しています。