2017年5月29日月曜日

普通の本屋を続けるために


 久禮亮太 『普通の本屋を続けるために』 明日香出版社 非売品
 
 

 NR出版記念会会場でいただいた。
 著者はフリーランス書店員としてブックカフェ運営や書店員研修などで活躍中。
 本書は同社の書店向け案内DMに連載したもの。これまでも連載原稿を「書店お役立ちマニュアル」として書籍化し、取引書店に配布している。

 もくじ
第一章   「本屋の仕事」を見直そう
第二章    まず、荷物を開けてみよう
第三章    スリップを読み解こう
第四章    正しい「抜き方」と「置き方」を理解しよう
第五章    棚前の平積みこそが売上げをつくる!
第六章    平台を「編集」しよう
第七章    一冊に賭ける「仕掛け」売り
第八章    データから「次の判断」を学ぼう
第九章    書店の「価値と利益」を考えよう
第十章    「不通の本屋」に立ち戻る

《本と読者の日常にとって一番大切なことは、身近な「普通の書店」が一軒でも多く、今よりちょっとずつ面白くて役に立つ存在になって、存続することではないか》

《棚を介して、ときには直に言葉を交わして、お客様と繊細で濃密なコミュニケーションをとるのです。それが本屋の醍醐味であり、仕事の本質だと思います。》

 著者は書店員の仕事の基本を言葉にして伝える努力をしている。それは人のためだけではない。そうし続けることで本屋が本屋として存続していける、と確信している。書店員として鍛え蓄え磨いてきた知識と技能を惜しみなく伝える。
(平野)

2017年5月28日日曜日

書店員の仕事パーチー


 『書店員の仕事』出版記念会

526日、お江戸文京区民センター。私は引退者ながら執筆者のハシックレで参加。
 





 

出版社、書店員、メディアの方々、初めての方、懐かしい顔、皆さんにお会いできてよかった。

登壇しているのは、左から新泉社・安喜さん、喜久屋書店の市岡さん(シロヤギ)と丸善京都の伊藤さん、NRくららさん。あとで執筆者が順番にお話。

会場では『ほんまに』も販売。NR事務局がいつも販売協力くれている。

ン十年のおつきあいの営業さんとはお互い〈根性の暇乞〉ちゃう〈今生〉を覚悟して涙の盃。でもね、GFたちとは大はしゃぎで乾杯している。切り替えが早い!

(平野)

2017年5月23日火曜日

雲遊天下 126


 『雲遊天下 126 物語――ある大阪の編集者』 
ビレッジプレス 500円+税
 
 

「ある大阪の編集者」とは、元『プレイガイドジャーナル』発行人の村元武。南陀楼綾繁が2013年にインタビューしていたが、発表の機会を逸していた。村元の著書2冊が完成したことで日の目を見る。

 村元は1943年生まれ。大阪労音で宣伝、編集、舞台監督。音楽舎で『フォークリポート』編集。1971年、失業中に『月刊プレイガイド』を引き継ぎ、新会社「プレイガイドジャーナル社」設立、『プレイガイドジャーナル』創刊。85年、ビレッジプレス設立。

《半年の失業保険の期間が切れる頃にはどうするかを決めないといけなかったんだけど、周りの先輩たちがいかにぼくに仕事を回すかということを考えてくれるわけです。(後略)》
 
 労音の先輩たちが照明や舞台監督の仕事を回してくれた。
「大きなイベントをやりながら小さな雑誌を作っていた」(南陀楼綾繁)
 最初の2年編集長、イベントスケジュールをどのように見せるか苦心した。

《この種の雑誌が待たれていたという実感ありましたね。ミュージシャン、主催者、劇団、ジス映画上映者ら、そして読者も含めて、毎日のように事務所にやってきてくれて、その出会いに元気づけられました。それで、読者は常に編集部に参加するわけです。》

 配本や取材を手伝ってもらう。相手も喜んで楽しんで参加する。

村元の著書、『プレイガイドジャーナルへの道 19681973 労音フォークリポートプレイガイドジャーナル』(2016年)、『プレイガイドジャーナルよ 19711985』(2017年)東方出版刊。
(平野) 2冊目、まだ。版元様、申し訳ござらん。

2017年5月21日日曜日

このくにのサッカー


 『このくにのサッカー 賀川浩対談集』 苦楽堂 1800円+税



 



賀川は92歳にして現役スポーツライター。神戸市生まれ、サッカー選手としても輝かしい経歴を持つ。2014年神戸市中央図書館(大倉山)に神戸サッカー文庫を開設。「このくにのサッカー」の「これまで」と「これから」について真剣に考えている人たちの話。

目次
第1章   戦略 岡田武史 川端三郎 桜井嘉人
第2章   戦場にて 釜本邦茂 澤穂希
第3章   育む セルジオ越後 黒田和生、加藤寛 佐々木則夫
第4章   広める 加茂建 岸本健
第5章   温故知新 石井幹子 岡野俊一郎 デットマール・クラマー

(平野)
 私はサッカーファンではない。記憶にある日本サッカーは、1964年東京オリンピックでのアルゼンチン戦勝利、次のメキシコオリンピックの銅メダル。そのあとは、〈ドーハの悲劇〉まで飛ぶ。サッカー本は読んでいないし、エラソーなことは言えん。
神戸まつりで人の多い三宮を通り過ぎて西灘ワールドエンズ・ガーデン。芸能人似(毎回しつこいと思う)の店主は芦屋のイベント出張だが、留守番さんがいて、おじさんはそれだけでハッピー。些細なことで喜ぶ。

2017年5月11日木曜日

仕事場のちょっと奥までよろしいですか?


 佐藤ジュンコ 『仕事場のちょっと奥までよろしいですか?』
 ポプラ社 1200円+税 

《日々の暮しのそばにあるものやことがつくられる、ちょっと奥のなかなか聞くことのないお話を、誠に勝手ながらみなさんを代表するような気持ちで聞いてきました。》

伝統工芸職人……こけし、花火、染物、漆塗り
クリエイター……小説、漫画、グラフィックデザイン、鳥瞰図
「場」をつくる……バー、お寺、編集
ユニークなものづくり……DIY印刷加工スタジオ、印章彫刻、ステンドグラス、建築

〈鳥瞰図絵師〉は神戸の人。実物とだいぶちがうけど、イラストなので受け入れよう。



 写真のてーしゃつは著者に会う時の正装用。
 
 自らも創作する佐藤ジュンコは取材したひとたちから学ぶ。

 仕事場取材のきっかけは、こけし工人の小笠原さん。
《歴史と伝統を守り、後世へ伝える役割を果たすひとは、昔から強いこだわりがあるのでは、と思っていましたが、その背筋のぴんとした柔軟さは少し意外で、憧れます。(中略) 遠くに感じていた手に、自分の手を伸ばしてみたら、思っていたよりずっと近くにあって、あたたかくて、ぎゅっと握り返してもらったような、そんな気持ちでいます。》

 本に関わる「クリエイター」たち。
《書店勤めを辞めて、イラストレーターとして仕事をするようになってから、ひとと、まちと、世界とこれからどう関わっていくのか、ぼんやりと考えていました。本の扉の向こうで、本作りに関わる4人の先輩たちの仕事場におじゃましてお話をうかがったことで、ささやかな決心のようなものが芽生えたようです。》

「もの」づくりではなく、「場」つくり。
……「場」として営む特定の空間としての「場所」ではなく、そのお仕事、もしくはそのかた自身が、誰かにとっての大切な意味を持つ「場」ののでは、と思うようになりました。その人と過ごした時間の余熱を持ち帰ることで、日々が明るく温かくなるような。》

「ユニーなものづくり」とは「ちょっと変わった」「唯一の」ものづくり。
《みなさん個人でものづくりをしているかたですが、決して一人で仕事をしているわけではありません。たくさんおつながりの中で、「ユニークなものづくり」を続けています。わたしもようやく最近になって、個人=一人ぼっち、ではないということがわかりました。》

(平野)
ほんまにWEB〈しろやぎくろやぎ〉更新。

2017年5月9日火曜日

暗い時代の人々


 森まゆみ 『暗い時代の人々』 亜紀書房 1700円+税

 
装丁・矢萩多聞

森が「暗い時代」と言うのは、昭和の戦争時代。「大正デモクラシー」と言われ、民衆運動労働運動が起こり左翼運動も活発だった時代から、戦争に突っ込んでいった。
《その時、人々は何を考えていたのか、どこが引き返せない岐路だったのだろうか。》
 現在の政治状況に、森は「率直に怖い、という感情を持っている」。だから、あの時代に向き合い、現在を考える。
「大正から戦前・戦中にかけて、暗い谷間の時期を時代に流されず、小さな灯火を点した人々」9人の評伝。斎藤隆夫、山川菊栄、山本宣治、竹久夢二、久津見房子、斎藤雷太郎、立野正一、古在由重、西村伊作。

第一章 斎藤隆夫 リベラルな保守主義者
第二章 山川菊栄 戦時中、鶉の卵を売って節は売らず
第三章 山本宣治 人生は短く、科学は長い
第四章 竹久夢二 アメリカで恐慌を、ベルリンでナチスの台頭を見た
第五章 久津見房子 戸惑いながら懸命に生きたミス・ソシアリスト
第六章 斎藤雷太郎と立野正一 「土曜日」の人々と京都の喫茶店フランソア
第七章 古在由重 ファシズムの嵐の中を航海した「唯物論研究」
第八章 西村伊作 終生のわがまま者にしてリベルタン

(平野)ほんまにWEB「海文堂のお道具箱」更新。

2017年5月3日水曜日

編集者の生きた空間


 高橋輝次 『編集者の生きた空間 東京・神戸の文芸史探検』
 論創社 2700円+税
 
 

 高橋は1946年生まれ、元創元社編集者。現在フリーで、古書探索・編集体験から得た文学話をまとめている。本書では〈編集者〉がテーマ。

目次
第Ⅰ部 編集部の豊穣なる空間  (砂子屋書房編輯部、「三田文学」編集部、河出書房編集部の面々など)
部 編集者の喜怒哀楽  (彌生書房社長、ある児童文学編集者、創元社編集者、中央公論社編集者など)
部 神戸文芸史探検抄  (エディション・カイエ、「航海表」、「少年」など)
部 知られざる古本との出逢い 

「あとがきに代えて」で、「印刷所や製本所の人たちの地道な働き」に着目している。本書にも「文芸と密接にかかわった印刷者たち」が数多く登場するし、野口冨士男も「印刷所を通してみる文壇史」に言及していることから、出版史を見直す新しい視点として「印刷所」を提案する。
 編集者から作家・詩人として活躍した人たちがいる一方、高橋は世に知られていない編集者たちの仕事にも光を当てている。また、出版社の外観、編集部という空間にも目を向ける。そして、神戸の文芸史も。
 本書は「古書を通して見た戦前、戦後の編集者の群像」と言える。
《今回も改めて思ったのは、古本探索の旅には限りがないな、ということである。私の場合、なぜだか分からないが、ひとつの原稿を書きおえてまもなく、それに関連する新たな文献がなおも次々に見つかってゆくという経験に恵まれている。そこに不思議なエネルギーが集中するのだろうか。(後略)》
 結果、「追記」「註」という形で原稿が追加されていく。

(平野)
『ほんまに』のこと、海文堂のことにも触れてくださっている。私が海文堂の本を書いたとき、お骨折りいただいた。
 こういう資料性の高い本には索引がほしいなあ。

2017年4月30日日曜日

東京の編集者


 『東京の編集者 山高登さんに話を聞く』 夏葉社 2300円+税
 
 

詳細はこちら。
http://natsuhasha.com/news/tokyohensyu/

 山高は1926(大正15)年東京生まれ、元新潮社編集者。版画家としても知られる。
 山高への聞き書きに加え、版画作成のために撮影した写真、装丁した本、書票作品を掲載。

《「本づくりについて」
 少しは会社に貢献しなきゃという思いもあったんですが、ぼくの担当する本はだいたいが初版二〇〇〇部か三〇〇〇部でしたね。その代わりというわけではないですが、中身の濃い本をつくってやろうと思っていました。いい本をつくりたいというのがぼくの変わらない願いなんです。(後略)》

 山高の版画。
http://www.seeds-planning.co.jp/yamataka/products/pg001.html

(平野)
 余計なことばかり書く。本書はワールドエンズ・ガーデンで買った。看板猫に久しぶりで会えた。古本屋紹介本で店主は芸能人に似ていると書かれたが、猫に会うために来店するお客が多い。店主よりもえらい存在。暖かい日差しの入る寝台の上で欠伸して、客を見透かす。こちらを。
https://twitter.com/worldendsgarden?lang=ja

 招き猫春眠合間に本を売る  よーまる

2017年4月28日金曜日

せいきの大問題


 木下直之 『せいきの大問題 新股間若衆』 新潮社 1800円+税

芸術作品の男性裸体表現(股間)に着目、「股間」表現の規制と変遷を考察する「股間若衆」第2作。今回は女性裸体も。
 著者は1954年浜松生まれ、東京大学大学院人文社会系研究科教授、文化資源学研究、元兵庫県立近代美術館学芸員。
 なぜ「股間を隠さなければならないのか」、アウグスティヌスやカントまで引っ張り出して考える。まさに大問題。

目次
帰ってきた股間若衆
股間風土記
日本美術の下半身
春画ワ印論
性地巡礼
猥褻物チン列頒布論

 
カバーの絵は雑誌『世界公論』19181月号表紙。裏は河鍋暁斎の春画。
 本書原稿に『股間若衆国語辞典』をあれこれ項目立てて書いたが、編集者に即日却下されたそう。
《こかんわかしゅう【股間若衆】またぐらの表現に意を凝らした男性裸像。日本では絵画よりも彫刻にすぐれた作品が多い。その名に反して若くはない者もけっこういる。(後略)》

(平野)真面目な研究者です。けど、おかしい、おもしろい。

2017年4月27日木曜日

『書店員の仕事』書評


 『書店員の仕事』書評

『書店員の仕事』(NR出版会編・発行、新泉社発売)が共同通信配信で書評掲載。沖縄タイムス、中國新聞、東奥日報など。写真は『山陰中央新報』423日。
 
 

評者は平野の名を出してくださっていますが、強調しているのはNR事務局くららさんのこと。

(平野)今春西宮から島根県に赴任した牧師さんが『山陰中央新報』を送ってくださった。当地の観光パンフレットもたくさん同封してくれて、暇なので楽しんでいる。観光大使?

2017年4月25日火曜日

人文会ニュース&書物復権


■ 『人文会ニュース NO.126』 人文会

 10出版社共同復刊 『書物復権 2017.4』 


 未來社水谷さんが「人文会ニュース」を毎号送ってくださる。今回は「書物復権」冊子も。復刊書目は5月下旬から協力書店で展示販売。
 冊子に大澤聡(批評家、メディア研究者)の推薦文。「やっぱり本は触れないといけない」に納得、反省。

(平野)ほんまにWEB「奥のおじさん」更新。

2017年4月18日火曜日

紙つなげ!


 佐々涼子(ささ りょうこ) 
『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 740円+税 

 20146月早川書房から単行本。

 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた製紙工場復興過程を追う。この工場は年に100万トンの紙を生産する。これは同社販売量の4分の1にあたり、同社が我が国の出版用紙の4割を担っている。すなわち、石巻工場が動かなかったら日本の出版が止まってしまうということ。当日出勤していた従業員は全員無事だったが、工場に津波が押し寄せ、建屋内・機械にも瓦礫が流れ込んでいた。ご遺体もあった。

 石巻工場の規模は大きい。敷地面積約33万坪、各建屋まで貨物の線路が何本も引き込まれて、製品を直接輸送できる。従業員514名(震災時)、協力会社を含めるとその3倍の人が工場内で働いている。最新鋭の機械を導入し、世界最大級の生産量。その最新機N6という機械(2007年稼働)は630億円かけて開発、全長270メートル(戦艦大和並み)、11000トン以上を生産する。工場長は会社のシンボルであるN6を最初に動かすことで復興の士気があがる、従業員・家族が救われる、地域も活気づく、と半年復興を宣言する。しかし、動かすのは古い機械8号(1970年稼働、全長111メートル)に変更。この機械は単行本・文庫の本文用紙、コミック用紙を製造していた。〈出版業界が8号を待っている〉というのが本社の言い分。なにせ「4割」だ。N6はチラシやカタログ用の薄い柔らかい紙を製造、また、システムが複雑なことから半年で動かすのは厳しかった。
 震災から半年、914日、8号稼働。

《抄紙機には何箇所か、オペレーターの操作によってシートを渡さなければならない箇所がある。(中略、オペレーターがエアーを吹き付け、薄い繊細な紙の向きを調整)/これらの作業を経て、最後のリールに巻きつくまでを「通紙」、あるいは「紙をつなぐ」という。》

 通常の操業よりもスムーズに「通紙」。1時間かかるところが28分という新記録。工場長の宣言通りの半年復興だった。
8号の親分」(抄造一課係長)のことばを紹介する。
「いつも部下たちには、こう言って聞かせるんですよ。『お前ら、書店さんにワンコインを握りしめてコロコロコミックを買いにくるお子さんのことを思い浮かべて作れ』と。小さくて柔らかい手でページをめくっても、手が切れたりしないでしょう? あれはすごい技術なんですよ。(後略)」
「衰退産業だなんて言われているけど、紙はなくならない。自分が回している時はなくさない。書籍など出版物の最後のラインが8号です。8号が止まる時は、出版がダメになる時です。(後略)」
 N6は震災一年目、2012326日稼働した。
 決断を下すリーダーや各部署の責任者、キーマンたちだけではなく、名前の出ない多くの人たちが紙を造っている、出版を支えている。

《紙には生産者のサインはない。彼らにとって品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。》

(平野)
「元」とはいえ、私は業界の末端の隅っこにいたのだから、「単行本で買えよ!」と己に突っ込む。
 古本愛好家・高橋輝次さんの新刊、もうすぐ出る。『編集者の生きた空間 東京・神戸の文芸史探検』、論創社より。海文堂のことにも触れてくださっているそう。


2017年4月15日土曜日

NR新刊重版情報


 『NR出版会新刊重版情報』 Vol.492 NR出版会事務局発行

 毎月NR出版会が書店・図書館に送付している出版案内。先日紹介した『書店員の仕事』(同会発行、新泉社発売)は本紙一面に連載していた。今号から新連載「本を届ける仕事」が始まるみたい。平野が寄稿しているけれど、事務局くららさんからの話は「旧連載と新連載の狭間で何か書け!」だったとボケボケ頭はうっすら覚えている。どっちにしても、また恥ずかしくもなく登場。そのうち同会のサイトに掲載されると思う。


(平野)
 

2017年4月13日木曜日

ぼくの東京全集


 小沢信男 『ぼくの東京全集』 ちくま文庫 1300円+税

 昨年末から小沢の本が続いていて、ありがたい。
 東京をテーマにした紀行文、エッセイ、小説、人物評伝、書評、詩、俳句をまとめる。「一人の作家が書き続けた65年分の東京文集」(帯)。30代の編集者が担当した。

《長生きはするものだな。弱年よりほそぼそつづけてきた六十余年の文業を、一冊でおおよそ通観できる本が編んでいただけようとは。》

第一章 焼跡の街  東京落日譜 女の戦後史・パンパン 敗戦と古本 他
第二章 感傷から骨灰へ――街を歩く  新東京感傷散歩 東京逍遥篇 他
第三章 わが忘れなば――小説集  わが忘れなば 昼と夜の境い 他
第四章 記憶の街角  ちちははの記 日比谷公園の鶴の噴水 他
第五章 東京の人  悲願千人斬の女――松の門三艸子 消えていった人、阿部定 他
第六章 東京万華鏡――ぼくの読書録  佐多稲子の東京地図 他
第七章 街のこだま――俳句と詩  句集 東京俳句 街のこだま 他
解説 池内紀

「東京落日譜」 東京大空襲の3日後友人たちと焼け跡を歩き回った体験を後年執筆(58年、「ヤモン」は架空)。
 信男少年は同級生ヤモンと被害地見物に出かける。家は空襲を免れた。動員先の工場で既に見物してきた同級生から様子を聞いていた。彼らは親類の見舞いとか用足しの途中とか弁解して、惨状を伝えた。
《罹災地をただ見物にゆくのは、怪しからぬ真剣味のない非国民的態度だと思うことに誰も異議はなかったのだ。》

 山手線神田駅下車、焼け跡へ「浮かれた足どりで歩み入った」が、広く静かな焼け跡は「季節外れの汐干狩」のよう。焼死体を見て「韋駄天走りに」走った。何台ものトラックに死体が積み上げられている。ヤモンが猿の丸焼けのようだと言う。後ろを歩いているヤモンも丸焼けになっているのではないかと不安におそわれる。乾パンをかじりながら坂道を登ると小さな映画館があった。映画に出てきた食べ物の話をしながら電車に乗る。乗客たちは疲れきってだまりこんでいる。陰陰としている。
《車中に陰々は充満し、衣服を通してぼくの体内にも侵みこみ、ぼくは膝がくずおれそうで、真鍮棒にしがみついた。》

 乗り換えのホームでヤモンが電車とホームの隙間に落ちてしまう。引き上げようとするが空腹で力が出ない。駅員も乗客も助けてくれない。やっとのことでふたりは電車に這いずりこんだ。
《首をあげると、乗客たちはこちらを見るのか見ないのか、眼や耳をなくしたしわくちゃの猿の顔が、蝋燭の灯ほどの仄明かりにずらりとならび、笑い声さえきこえなかった。いったい彼らは生きているのか。/そうして電車は、四つん這いの二匹の猿と、座席にならんで坐った猿たちをゴットンと一揺りゆすっておいて、陰々と大東京の闇の中を走りだした。》

(平野)
 神戸空襲の体験記でも、若者たちが大人たちの無気力・腑抜けぶりを書いていた。圧倒的な被害に遭って大人はすぐには立ち直ることはできない。

2017年4月4日火曜日

旧グッゲンハイム邸


 森本アリ 
『旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と小さな町の豊かな暮らし』 ぴあ 1500円+税

 神戸市垂水区塩屋町、かつて居留地で働く外国人の住宅や別荘地として発展した。狭い平地には国道、JR、山陽電車が並走している。

……海と山の間が非常に狭い地形にあり、車が通れないような(そして傘を差したままでは人もすれ違えないような)細い道に商店が並ぶ、昔ながらのとても小さな町です。南は海に面しており、すぐ北側は山なので、どこを歩いても坂!坂!坂! その分、町を歩けばいろんなところから海が見えます。》

 旧グッゲンハイム邸は、1909年に建てられたドイツ系アメリカ人貿易商の邸宅
 多くの洋館が住む人もなく荒れ、挙句解体され、マンションや駐車場にされている。旧グッゲンハイム邸も老朽化し、売りに出されていた。
 
 森本は塩屋育ちの音楽家、2007年に家族でこの洋館を購入し、管理人となり、引き継いだ。本書は、引き継ぐまでの過程、その後の再生を報告し、さらに塩屋地域の人たちとまちづくりを考えていく。
「旧グッゲンハイム邸」は修復を続けながら、音楽イベント、カルチャー教室、パーティーなど多目的貸しスペースとして運営している。敷地内の長屋では約10名がシェアハウス生活。世界中から「ちょっと変わった音楽家たち」がやってきて、演奏し、食事をし、泊っていく。
http://www.nedogu.com/
 
(平野)
 サマセット・モームの短篇「困ったときの友」に「塩屋クラブ」「垂水川」が登場する。楽しい話ではない。貿易商が落ちぶれた男に仕事をやる条件として遠泳をさせるが、男は溺死。
『コスモポリタンズ』(ちくま文庫所収)。

2017年4月2日日曜日

海鳴り


 『 海鳴り 29 』 編集工房ノア 非売品

 編集工房ノアが毎年発行する総目録兼PR冊子。

蛙池村のこと  庄野至
「季節」を出していたころ  山田稔
日常から(十二)  貞久秀紀
夏の詩人(17)真価と贋値  萩原健次郎
暮らしのなかで  真治彩
湖国から加賀路へ  三輪正道
能登路  定道明
芦刈  大塚滋
伊勢田さんの家  涸沢純平
表紙絵  庄野英二

 海文堂閉店以降、京都に行ったついでに三月書房でいただいていた。今年は先月の本イベントでノアの本を置かせてもらった関係で直送してくださった。
 ノアの本を店頭に置いている本屋は少ない。ジュンク堂書店堂島本店では広いスペースで展開していたが、315日をもって撤退したそう。涸沢社主は「ひとえに当方の事情」と書いている。私は堂島本店には年に数回しか行かないが、このコーナーが楽しみだった。

(平野)
ヨソサマのイベント
 第十二回サンボーホール ひょうご大古本市

47日(金)~9日(日) 
10時~19時(最終日18時まで)
神戸三宮サンボーホール1F大ホール

主催 兵庫県古書籍商業協同組合 
http://www.hyogo-kosho.net/