2017年4月18日火曜日

紙つなげ!


 佐々涼子(ささ りょうこ) 
『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 740円+税 

 20146月早川書房から単行本。

 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた製紙工場復興過程を追う。この工場は年に100万トンの紙を生産する。これは同社販売量の4分の1にあたり、同社が我が国の出版用紙の4割を担っている。すなわち、石巻工場が動かなかったら日本の出版が止まってしまうということ。当日出勤していた従業員は全員無事だったが、工場に津波が押し寄せ、建屋内・機械にも瓦礫が流れ込んでいた。ご遺体もあった。

 石巻工場の規模は大きい。敷地面積約33万坪、各建屋まで貨物の線路が何本も引き込まれて、製品を直接輸送できる。従業員514名(震災時)、協力会社を含めるとその3倍の人が工場内で働いている。最新鋭の機械を導入し、世界最大級の生産量。その最新機N6という機械(2007年稼働)は630億円かけて開発、全長270メートル(戦艦大和並み)、11000トン以上を生産する。工場長は会社のシンボルであるN6を最初に動かすことで復興の士気があがる、従業員・家族が救われる、地域も活気づく、と半年復興を宣言する。しかし、動かすのは古い機械8号(1970年稼働、全長111メートル)に変更。この機械は単行本・文庫の本文用紙、コミック用紙を製造していた。〈出版業界が8号を待っている〉というのが本社の言い分。なにせ「4割」だ。N6はチラシやカタログ用の薄い柔らかい紙を製造、また、システムが複雑なことから半年で動かすのは厳しかった。
 震災から半年、914日、8号稼働。

《抄紙機には何箇所か、オペレーターの操作によってシートを渡さなければならない箇所がある。(中略、オペレーターがエアーを吹き付け、薄い繊細な紙の向きを調整)/これらの作業を経て、最後のリールに巻きつくまでを「通紙」、あるいは「紙をつなぐ」という。》

 通常の操業よりもスムーズに「通紙」。1時間かかるところが28分という新記録。工場長の宣言通りの半年復興だった。
8号の親分」(抄造一課係長)のことばを紹介する。
「いつも部下たちには、こう言って聞かせるんですよ。『お前ら、書店さんにワンコインを握りしめてコロコロコミックを買いにくるお子さんのことを思い浮かべて作れ』と。小さくて柔らかい手でページをめくっても、手が切れたりしないでしょう? あれはすごい技術なんですよ。(後略)」
「衰退産業だなんて言われているけど、紙はなくならない。自分が回している時はなくさない。書籍など出版物の最後のラインが8号です。8号が止まる時は、出版がダメになる時です。(後略)」
 N6は震災一年目、2012326日稼働した。
 決断を下すリーダーや各部署の責任者、キーマンたちだけではなく、名前の出ない多くの人たちが紙を造っている、出版を支えている。

《紙には生産者のサインはない。彼らにとって品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。》

(平野)
「元」とはいえ、私は業界の末端の隅っこにいたのだから、「単行本で買えよ!」と己に突っ込む。
 古本愛好家・高橋輝次さんの新刊、もうすぐ出る。『編集者の生きた空間 東京・神戸の文芸史探検』、論創社より。海文堂のことにも触れてくださっているそう。