2017年10月12日木曜日

幕末明治人物誌


 橋川文三 『幕末明治人物誌』 中公文庫 1000円+税

解説・渡辺京二

 橋川文三(はしかわ・ぶんそう、192283)は政治学者、著書に『日本浪曼派批判序説』(未來社)など多数。
 
 

明治という時代を見ることなく倒れた人、権力から外れた人、思想家、軍人、文化人、政治家、結社主宰者ら。歴史の本流ではなく、どちらかと言うと敗者の側にいる人物たちを取り上げた論文集。吉田松陰、坂本龍馬、西郷隆盛、後藤象二郎、高山樗牛、乃木希典、岡倉天心、徳富蘆花、内村鑑三、小泉三申、頭山満。

《歴史は主役だけで動くものではなく、蔭には無数の脇役の働きがある。後藤象二郎は準主役であっても、いまの人には耳遠い存在だろうし、小泉三申も知る人ぞ知るにせよ、いまとなっては無名に等しかろう。松陰や龍馬のような超有名人にまじって、今日忘れられたような人物に光が当っていることも、本書の今日的有用性ということになろう。》(渡辺)

 西郷隆盛は維新の英雄として現在も人気がある。しかし、歴史家の評価は芳しくない。「征韓論」が侵略思想の源流とみなされること、大久保利通らに比べて近代国家建設に貢献していないこと、を理由にされる。

 西郷下野、西南戦争は、明治新政府が西郷の理想と離れた結果という意見も多い。

《しかしそれなら西郷が維新にいかなる夢を託していたかといえば、直接にはわかりにくいところが多い。ただもし幾分の飛躍をおそれずにいえば、西郷はそこにもっとより(、、)徹底した革命を、もっとより(、、)多くの自由と平等と文明(、、)をさえ夢想していたかもしれないのである。》

(平野)